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「クウェンはどうだか知らないが、カルマじゃあ戦争に与しない術師は術師狩りの対象だった。師匠は追手の招来獣に脚を食いちぎられた。これ以上は逃げられないから殺せと言われて、俺はその言葉に従った」
淡々と話される内容にアンティが小さく息をのむ。ゲルディークはちらりとアンティに左目を向けた。
「だからあいつが弟子を取ったと聞いた時、嫌な気分がした」
「ゲルディさん……」
「あいつも独り立ちする前に師匠と死に別れたって聞いてる。あんな性格だし、もしものことがないようにと思ってついて来たんだが……」
ため息を吐くゲルディークを見て、アンティは戸惑いながら尋ねる。
「どうして、僕にそれを?」
「そんなの、自業自得だからさ」
鼻を鳴らしたゲルディークがポケットを探りながら言う。
「あいつに迷惑かけちまったし、お馬さんにも借りを作っちまった。それに俺、お前のことも殺しかけたんだろ。もしそんなことになってたら二度とあいつに顔向けできなかった」
だから、とゲルディークが防水革の小さな包みと親指の先ほどある水精石の結晶を一つ、アンティの前に突き出した。
「蔦の花の種。オオカミグマの時より強度を増してある。使い方は知ってるよな、水とトフカ語で発芽する俺の研究成果だ」
アンティが目を見張った。鳶色の瞳が真摯な眼差しでアンティを見つめる。
「これと、お前と、お馬さん。それにあいつの篭手を使えば湖周辺は制圧できる。サリエートも”還せる”はずだ。俺の計算ならな」
「でも、ゲルディさんは……」
「俺は結界を張って身をひそめてる。そういうのは慣れてるし」
心配そうなアンティの気配を察したのか、ゲルディークはやや困ったように笑った。
「お前さ、なんか少しずつ師匠に似てきてるよな。大丈夫だよ、そんな顔されてるより一人で虫にでも這われてた方が気が楽だ」
ゲルディークがポケットから一粒の種を取り出す。側に置かれた水筒から水を一振りすると軽く息を吸った。
『──目覚め、伸ばせ、標辺の花』
ゲルディークの手の上で一本の花が咲いた。
月明かりを受けて淡く輝く、薄紅色をした花だった。ゲルディークはそれをアンティに押しつける。
「あいつの襟に印を付けておいた。この花が示す方向に進めば、夜明け前には追いつけるんじゃないか?」
アンティは驚いた顔を向けた。ゲルディークは軽く唇に指を当てる。
「ここだけの秘密。あいつには黙っててくれ」
「は、はい」
「危険だなんだとあいつは渋るだろうが、説得するなら思ったことを全部言ってやればいい。お前が真剣に伝えればあいつは絶対に話を容れる。流されやすいやつだからな。……それと」
ゲルディークはふと思い出したように言った。
「この機会にちゃんと伝えてやれよ」
「何をですか?」
「お前のこと」
きょとんとしたアンティを、ゲルディークはどこかくすぐったそうな顔でのぞき込んだ。
「あいつは肝心なところが本当に鈍いから、お前から言わなきゃいつまで経っても気づかねえよ。……それでようやく、お前らも師弟として上手く噛み合っていくんだろうな」
何を思い出したのかゲルディークはおかしそうに笑うと、アンティに向かって言った。
「師匠のこと任せたぜ、アンティ・アレット」
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