助言

2/2
前へ
/70ページ
次へ
クウェン(こっち)はどうだか知らないが、カルマじゃあ戦争に(くみ)しない術師は術師狩りの対象だった。師匠は追手の招来獣(しょうらいじゅう)に脚を食いちぎられた。これ以上は逃げられないから殺せと言われて、俺はその言葉に従った」  淡々と話される内容にアンティが小さく息をのむ。ゲルディークはちらりとアンティに左目を向けた。 「だからあいつが弟子を取ったと聞いた時、嫌な気分がした」 「ゲルディさん……」 「あいつも独り立ちする前に師匠と死に別れたって聞いてる。あんな性格だし、もしものことがないようにと思ってついて来たんだが……」  ため息を吐くゲルディークを見て、アンティは戸惑いながら尋ねる。 「どうして、僕にそれを?」 「そんなの、自業自得だからさ」  鼻を鳴らしたゲルディークがポケットを探りながら言う。 「あいつに迷惑かけちまったし、お馬さんにも借りを作っちまった。それに俺、お前のことも殺しかけたんだろ。もしそんなことになってたら二度とあいつに顔向けできなかった」  だから、とゲルディークが防水革の小さな包みと親指の先ほどある水精石(すいせいせき)の結晶を一つ、アンティの前に突き出した。 「(つた)の花の種。オオカミグマの時より強度を増してある。使い方は知ってるよな、水とトフカ語で発芽する俺の研究成果だ」  アンティが目を見張った。鳶色(とびいろ)の瞳が真摯(しんし)な眼差しでアンティを見つめる。 「これと、お前と、お馬さん。それにあいつの篭手を使えば湖周辺は制圧できる。サリエートも”還せる”はずだ。俺の計算ならな」 「でも、ゲルディさんは……」 「俺は結界を張って身をひそめてる。そういうのは慣れてるし」  心配そうなアンティの気配を察したのか、ゲルディークはやや困ったように笑った。 「お前さ、なんか少しずつ師匠に似てきてるよな。大丈夫だよ、そんな顔されてるより一人で虫にでも這われてた方が気が楽だ」  ゲルディークがポケットから一粒の種を取り出す。側に置かれた水筒から水を一振りすると軽く息を吸った。 『──目覚(めざ)め、()ばせ、標辺(しるべ)(はな)』  ゲルディークの手の上で一本の花が咲いた。  月明かりを受けて淡く輝く、薄紅色をした花だった。ゲルディークはそれをアンティに押しつける。 「あいつの襟に印を付けておいた。この花が示す方向に進めば、夜明け前には追いつけるんじゃないか?」  アンティは驚いた顔を向けた。ゲルディークは軽く唇に指を当てる。 「ここだけの秘密。あいつには黙っててくれ」 「は、はい」 「危険だなんだとあいつは渋るだろうが、説得するなら思ったことを全部言ってやればいい。お前が真剣に伝えればあいつは絶対に話を容れる。流されやすいやつだからな。……それと」  ゲルディークはふと思い出したように言った。 「この機会にちゃんと伝えてやれよ」 「何をですか?」 「お前のこと」  きょとんとしたアンティを、ゲルディークはどこかくすぐったそうな顔でのぞき込んだ。 「あいつは肝心なところが本当に鈍いから、お前から言わなきゃいつまで経っても気づかねえよ。……それでようやく、お前らも師弟として上手く噛み合っていくんだろうな」  何を思い出したのかゲルディークはおかしそうに笑うと、アンティに向かって言った。 「師匠のこと任せたぜ、アンティ・アレット」
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加