金色の目の子ども

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 子どもは金色の目を丸くすると小さく眉根をよせる。 「さっきの名前は、少し、長いので……」  しばらくして、たどたどしい口調で女に答えた。 「もう少しだけ、短い名前がいいです」 「そ、そうかっ!」  女はぱっと顔を上げた。 「では、……アンティ・アレット(―アレットのアンティ―)。これならどうじゃろうか?」 「アンティ・アレット」  子どもは何度かその名前を口の中で唱えると、ゆっくりと頷いた。 「それなら、覚えられます。僕は、アンティ……」 「よし、ではそれで決まりじゃ。もし前の名前を思い出したらすぐに教えるのじゃぞ」 「はい」  そう言って黒髪の子ども、──アンティはぎこちなく笑う。それを見た女もほっと安堵(あんど)の息を吐いた。 「そうじゃ、ワシらの名前もまだ教えておらんかったのう」  女は歩きながらアンティに話しかけた。 「今、お主を抱えて歩いておる白い男がラウエルじゃ。不愛想に見えるが優しいやつじゃからな、安心して頼ってよいぞ」 「はい」 「で、ワシの名前はトレンスキーじゃ」 「……え?」  アンティが女を見る。アンティを抱えて歩くラウエルは無言のままだ。  しばらくの沈黙の後、女は軽く咳払いをして再び言った。 「トレンスキー・エル・デア・ルートポート。それがワシの名前じゃ」  アンティはぽかんとした表情になる。女はやや()ねた面持ちで目を逸らした。 「……変な名前だと思ったじゃろう?」 「えっと、その……」 「別に、これは何も言っていないのだ」  アンティの頭上からラウエルが助け舟を出した。ふてくされた様子の女の顔を見て小さく肩をすくめる。 「君の方こそ、そんなに気にするのならいっそ改名でもすればいいのだ」 「それはできぬ。……呼びにくければ好きに呼んでくれ」  トレンスキーはそれだけ言うと大股に道を歩き出した。  遠ざかる背中を無言で追いかけるラウエルは、胸元を引く子どもの手に気づいてやや歩調を緩めた。 「……僕のせいで、怒ってしまったんですか?」 「気にすることはないのだ」  ラウエルは淡々と答えた。 「今のは単に、あれの気持ちの問題なのだ」  アンティは不思議そうな顔をすると、前を歩く灰茶の外套(がいとう)を見つめた。
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