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3-2★ 世界に隠された世界(2)
次の日、朝日が小屋の窓から差し込んでくる頃。
穂詩歌とアスはおじいさんにお礼を言い、“エスペラール王国”を目指して出発した。
おじいさんの話だと、とにかくひたすらまっすぐ歩けばたどり着くということだったが……
「また迷子にならないといいんだけど」
昨日の惨劇を思い出し、穂詩歌がぼやく。
「明るいから大丈夫でしょ。昨日は夜で真っ暗だったから」
アスは穂詩歌の腕の中で淡々と答えた。
不安を拭いきれない穂詩歌は一度振り返って、少し先におじいさんの小屋を見据えると、再び前に向き直り、恐る恐る歩を進めた。
チュンチュン、チチチチと、小鳥たちが爽やかな歌声で二人の横をすり抜けていく。
そしてそのまままっすぐ飛んでいき、光の中に消えた。
そんな小鳥たちを見て、なんとなくこっちで合っている気がする、と穂詩歌は気持ちを持ち直した。
「それにしても」
空気を変えるように、カラッとした声で言う。
さっきよりも足取りが軽い。
「あのおじいさん、何者なんだろうね? 色々当てちゃうし、なんだかよくわかんない国の入国を許可しちゃうし……悪い人には見えなかったけど」
話を振るようにアスを見下ろす。
「……」
アスはぼんやり前を向いていた。
「……アス?」
穂詩歌がアスの顔を覗き込むと、彼は一瞬ピクッとし、
「えっ? あ、うん、そうだね」
サラッと答えて、何事もなかったように前に向き直った。
穂詩歌はぷくーっとほっぺたを膨らませる。
「ねえ、アス。あの小屋に行ってから、なんか変じゃない?」
「そうかな」
「うん、変だよ。なんか……」
ーーとその時、突然視界が開けた。
ブワッと暖かい風が吹く。
風がサワサワと音を立てた。
「ここが……エスペラール王国……?」
それは穂詩歌が想像していたのより、ずっと美しい風景だった。
カラフルな屋根の家が並び、その間を通る道はどこもレンガが敷き詰められていた。
遠くには海が見え、この辺りでも微かに潮の香りがする。
そして広がる風景の中央には、おじいさんの言っていた通りお城が建っていた。
一つだけスッと高く、一目でわかった。
これはまるで、おとぎ話に出てくる異国の風景だ。
穂詩歌がふと視線を落とすと、アスはぼんやりした様子でその風景を眺めていた。
(へぇー。アスでも感動するんだ)
穂詩歌はクスッと笑うと一回深呼吸をし、勢いよくレンガの道に足を踏み出した。
家々が建ち並ぶ道を抜けたあとは、出店が続いていた。
果物、野菜、ジュース、ジャム、生活用品や雑貨まであらゆる物が並んでいる。
その前を歩く度に、威勢の良い声が飛び交った。
「おや、お嬢ちゃん」
洋服屋の前を通り過ぎようとした時、店主と思われる男性に呼び止められた。
「見ない顔だね?」
穂詩歌はギクッとして立ち止まり、慌てて言葉をつくろう。
「あっ、ああああの、アス……えっと、この子、ケガをしちゃったみたいで……」
胸の中のアスをぎこちなく前へ差し出す。
「えーっとそれで、森のおじいさんに相談したら、ここのお城に行きなさいと言われまして……それで、あのー……」
“本来は立ち入り禁止“とおじいさんが言っていたのを思い出す。
もしかして、切り殺されたりはしないだろうか、という不安が浮かんできた。
「なんと! お城に!」
洋服屋さんがぐいっと二人に一歩近づく。
次の瞬間、
「それは良いお考えだぞ!」
嬉しそうにニカッと笑った。
穂詩歌は拍子抜けして、目をぱちくりさせた。
「この国の王様や王妃様は素晴らしいお方だ。必ずやその子を助けてくださるに違いない!」
「それに、お二人の一人娘、シェリル王女様も、とーっても美しい上にお優しい方なの! きっと力になってくれるわ」
と突然、大きな花カゴを抱えた少女がいつの間に穂詩歌のすぐ横に張り付いていた。
その瞳はキラキラと輝いている。
「うむ」と洋服屋さんはうなずき、
「是非お行きなさい」
いかにも誇らしげに、胸を大きく張って言った。
ふと周りを見ると、街の他の人たちもニコニコとこちらを見ているようだった。
どうやらこの街の人たちは、お城の人たちをかなり信頼し切っているようだ。
「……はい! 行って参ります!」
この様子なら、アスの足もすぐに治してもらえそうな気がする。
穂詩歌とアスは洋服屋さんたちに別れを告げると、再びレンガの道を元気よく歩き出した。
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