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1-1★七夕祭り(1)
年にたった一度——今年も花火が上がる。
「きれーっ! 見てお母さん!」
「ふふふ。そんなにはしゃいで、穂詩歌(ほしか)はまだ子どもね〜」
緑豊かな木々と草花に囲まれた、小さな国の小さな村。
穏やかに時が流れるこの村も、毎年この7月7日だけは大騒ぎ。
一家で出店を開いたり、歌やダンスを披露したりと、村人全員が全力で楽しむ。
そしてその祭りの最後を彩るのがこの花火。
何百と上がる花火が小さな村を明るく照らすと、また幸せな一年が送れそうな、そんな気持ちになるのだ。
穂詩歌はお父さんとお母さん含めた三人で、毎年恒例のスープを振る舞っていたが、花火の前にはすっかり売り切れとなっていた。
——バン! バン! ババーン!
最後に大きな花火が連続で上がる。
生演奏と共にフィナーレを飾ると、小さな光が名残惜しそうにキラキラと空で舞う。
明かりが消えると、空は真っ暗になった。
村のあちこちから盛大な拍手がこだまする。
今年もまた終わった。
夢のようなお祭りは一瞬にして終わってしまう。
閉会宣言の声を合図に、一斉に片付けが始まる。
穂詩歌はいつもこの瞬間がひどく心地悪い。
突然夢から醒めて、どこかに一人取り残されてしまっているような気持ちになる。
こんな気持ちになるのは自分だけかのように、みんなは機械的に淡々と片付けを進めていってしまうのだ——。
「今年も見えないねー……」
ぼんやりしたまま大きなお鍋を抱えた穂詩歌は、隣のブースで拭き掃除をしている絵里(えり)に声をかける。
「ん? 何が?」
絵里とは同い年で、小さい頃からよく一緒に遊ぶメンバーのうちの一人だ。
その中でも特に話しやすいと感じるのは、歳が同じというのもあるだろうが、絵里がとても気さくな性格だからだろう。
一番初めに話しかけてくれたのも絵里だったし、一番初めに仲良くなったのも絵里だった。
「何がって、あ・ま・の・が・わ!」
「あ〜。まあ、毎年でしょ?」
「こんなんで意味あるのかなあ〜、七夕祭り!」
七夕祭りでは、一人一人の願い事を細長い紙に書いて、村の中心の大きな木にくくりつける。
そうすると、空の星が願いを叶えてくれると言われている。
願いを叶える星は、それぞれの願いを抱えて流れ星になる。
だから七夕祭りの夜には、いつもよりもたくさんの流れ星——“流星群“と言うらしい——が見られるそうなのだが、穂詩歌はまだ一度もまともに見たことがない……ような気がする。
“気がする“というのは、もしかしたら小さい時に見たことがあるかもしれないけれど、記憶にはないだけかもしれないから、念のため付け加えておいた。
ちなみに穂詩歌はまだ願い事を決められず、真っ白な紙をポケットに入れたままだった。
「穂詩歌〜先に運んでるわよーっ」
お母さんがたくさんの道具を抱えながら声をかける。
「はーいっ! 私もすぐ行きまーすっ!」
「うちももう終わるよ。途中まで一緒に帰ろ〜っ」
絵里が布巾をたたみながら言うので、穂詩歌は「うんっ!」と元気よく答えた。
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