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3-1★ 世界に隠された世界(1)
小屋の中は小綺麗に片付いていた。
目立って見えるのは、真ん中に置かれた木製の丸いテーブルと、それを囲むように並んだ四つのイス。それから、窓際の調理台と、奥にある暖炉だけだ。
穂詩歌は緊張しながらも、なんだか不思議な感じのするこの部屋を、興味深そうにきょろきょろと眺めた。
二人を招き入れたおじいさんはまっすぐ調理台に向かっていたが、そわそわした様子の二人をフッと振り返って、
「まあ、とりあえずお座んなさいな」
と片手でイスを指した。
「あっ、はいっ、失礼しますっ!」
穂詩歌はぎこちなく答えながら、一番近くのイスをそっと引き、まずはアスをゆっくり座らせた。
小さな左足がくいっと前を向く。
右足が欠けていても、座るのは問題なさそうだ。
その隣のイスに、穂詩歌もちょこんと腰掛ける。
「どうぞ」
二人が腰掛けるや否やおじいさんが木の器を二つ持ってきて、それぞれの前に置いた。
もくもくと湯気の上がるその器には、美味しそうなスープがよそってあった。
その見た目からして、ポタージュスープかな、と穂詩歌は思うと、自然と口角が上がった。
お母さんもよく作ってくれて、お気に入りメニューの一つなのだ。
「いただきまーす!」
急に嬉しさが勝って、元気よく穂詩歌が言うと、
「いただきます」
つられるようにアスも言って、スープを口にする。
スープには野菜がたっぷり入っていた。
しかしとろけるような舌触りで、とても優しい味がした。
「——ところで」
二人がスープをほぼ飲み切ったところで、おじいさんは話を切り出した。
「そちらのお星さんは……」
穂詩歌は慌てて最後の一口をゴクンと飲み込む。
「流れ星のアスです。どうやらケガをしているみたいで……。おじいさん、治せますか?」
そっちから切り出してくれるならば話は早い!と言わんばかりに、食いつくような勢いでおじいさんをまっすぐ見つめた。
「ううーむ……。直してあげたいのは山々なのじゃが、さすがのわしも、“欠けた星”の治し方は知らんからのう……」
いかにも申し訳なさそうに言うおじいさんに、穂詩歌は「えっ」と声をもらす。
「おじいさん、アスがどこをケガしているのか知っているんですか?!」
最初に会った時に「ケガをしている」と言われたことも驚いたが、それ以上に、今穂詩歌の隣にちょこんと座ったアスの足はテーブルの下に隠れていて、よく見なければ「欠けていること」はそうそうわかりそうにない。
たとえば誰かに「ケガをした」と言わた時、穂詩歌だってパッと思いつくのは「転んで足をすりむいた」とか「指を切っちゃった」とかそんなことで、まさか「足が欠けている」だなんて思いもしないと思うのだ。
どこかでチラッと見えたのだろうか……?
穂詩歌が目をまん丸に見開いておじいさんを見つめていると、
「なあーに。長年のカンじゃよ。一目見ればすぐに事態がわかる」
おじいさんはお茶目にウインクをする。
「おじいさん、すごーいっ!!」
穂詩歌が尊敬の念を込めて拍手をする。
おじいさんはニコニコと笑いながら、そっとアスにもその笑みを向けた。
アスは——咄嗟に目をそらした……ように見えた。
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