3-1★ 世界に隠された世界(1)

1/2
前へ
/16ページ
次へ

3-1★ 世界に隠された世界(1)

小屋の中は小綺麗に片付いていた。 目立って見えるのは、真ん中に置かれた木製の丸いテーブルと、それを囲むように並んだ四つのイス。それから、窓際の調理台と、奥にある暖炉だけだ。 穂詩歌(ほしか)は緊張しながらも、なんだか不思議な感じのするこの部屋を、興味深そうにきょろきょろと眺めた。 二人を招き入れたおじいさんはまっすぐ調理台に向かっていたが、そわそわした様子の二人をフッと振り返って、 「まあ、とりあえずお座んなさいな」 と片手でイスを指した。 「あっ、はいっ、失礼しますっ!」 穂詩歌はぎこちなく答えながら、一番近くのイスをそっと引き、まずはアスをゆっくり座らせた。 小さな左足がくいっと前を向く。 右足が欠けていても、座るのは問題なさそうだ。 その隣のイスに、穂詩歌もちょこんと腰掛ける。 「どうぞ」 二人が腰掛けるや否やおじいさんが木の器を二つ持ってきて、それぞれの前に置いた。 もくもくと湯気の上がるその器には、美味しそうなスープがよそってあった。 その見た目からして、ポタージュスープかな、と穂詩歌は思うと、自然と口角が上がった。 お母さんもよく作ってくれて、お気に入りメニューの一つなのだ。 「いただきまーす!」 急に嬉しさが勝って、元気よく穂詩歌が言うと、 「いただきます」 つられるようにアスも言って、スープを口にする。 スープには野菜がたっぷり入っていた。 しかしとろけるような舌触りで、とても優しい味がした。 「——ところで」 二人がスープをほぼ飲み切ったところで、おじいさんは話を切り出した。 「そちらのお星さんは……」 穂詩歌は慌てて最後の一口をゴクンと飲み込む。 「流れ星のアスです。どうやらケガをしているみたいで……。おじいさん、治せますか?」 そっちから切り出してくれるならば話は早い!と言わんばかりに、食いつくような勢いでおじいさんをまっすぐ見つめた。 「ううーむ……。直してあげたいのは山々なのじゃが、さすがのわしも、“欠けた星”の治し方は知らんからのう……」 いかにも申し訳なさそうに言うおじいさんに、穂詩歌は「えっ」と声をもらす。 「おじいさん、アスがどこをケガしているのか知っているんですか?!」 最初に会った時に「ケガをしている」と言われたことも驚いたが、それ以上に、今穂詩歌の隣にちょこんと座ったアスの足はテーブルの下に隠れていて、よく見なければ「欠けていること」はそうそうわかりそうにない。 たとえば誰かに「ケガをした」と言わた時、穂詩歌だってパッと思いつくのは「転んで足をすりむいた」とか「指を切っちゃった」とかそんなことで、まさか「足が欠けている」だなんて思いもしないと思うのだ。 どこかでチラッと見えたのだろうか……? 穂詩歌が目をまん丸に見開いておじいさんを見つめていると、 「なあーに。長年のカンじゃよ。一目見ればすぐに事態がわかる」 おじいさんはお茶目にウインクをする。 「おじいさん、すごーいっ!!」 穂詩歌が尊敬の念を込めて拍手をする。 おじいさんはニコニコと笑いながら、そっとアスにもその笑みを向けた。 アスは——咄嗟に目をそらした……ように見えた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加