1-1★七夕祭り(1)

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お祭り会場から家まで、ほとんど距離はなかった。 けれど、ほんの少しの時間でも、友だちとはおしゃべりしてたい。 それぞれ大きな荷物を抱えながら、穂詩歌たちはゆっくりゆっくり歩いた。   「七夕の夜ってさ、織姫様と彦星様が会える1年に一度の日なんでしょ?」   そういう穂詩歌は、抱えたお鍋でほとんど正面が見えていない。 声もお鍋の金属に反射して、不思議な響きを持っている。   「そうだけど、物語の中のお話でしょ?」   相変わらず絵里はサッパリしている。 いつものことなので、気にせず穂詩歌は続ける。   「1年に一度しか会えないって寂しくないのかな。っていうか、毎年曇ってて、ちゃんと会えているのかさえ疑問!! 心配!!!」 「星空って、雲の上にあるって先生言ってたし、会えてはいるんじゃないかなーあ。実在するんならだけど」 「もーうっ!」   楽しく笑い合いながら、穂詩歌が勢い込んで絵里を振り返ろうとする。 ——と、足元の小石につまずき、フラリと揺れて——倒れる……!——そう思うと同時に、    「「おっと」」 両側から声が聞こえて、腕をガシッと掴まれる。 両足のつま先が浮いているが、なんとか転ばずに済んだことに安堵する。   「穂詩歌、大丈夫?」   絵里とは反対側から、小さく細い声が聞こえる。   「優奈(ゆうな)〜! 絵里も、ありがとうーっ!! おかげさまでこの通りっ!」 「良かった」   優奈も絵里と同じく同級生だ。 優奈はとても大人しい性格で、口数は少ない。 でもとっても優しくて、いつも穂詩歌やみんなを気遣ってくれる、大好きな友だちだ。   「優奈んちはもう片付け終わったの?」   手ぶらの優奈を見て、絵里が驚く。   「うん。だから、これ吊るしに行こうと思って」   そう言って優奈は、細長い紙をポケットから取り出す。   「アレッ、短冊! まだ吊るしてなかったの?」   そういう絵里は、とっくに吊るしているようだ。   「うん…お願い事、何にしようか迷っちゃって」   テヘヘと恥じらうように笑う優奈は、なんだか可愛らしい、と穂詩歌は思った。   「で、結局何にしたの?」   絵里がニヤニヤしながら聞く。   「えっとね…“今年も平和に過ごせますように“」 「さすが優奈」   期待していたものとは違ったらしく、絵里はちょっと残念そうな顔をしながら言った。   「ちなみにアタシは、“新しい服が欲しい!“にした〜」 「絵里らしい〜」 「穂詩歌は?」 「え」 「え、って、願い事!」 「ま、まだ……」 「「えええええ〜〜〜!!!」」   二人の驚きの声が、夜の空にこだまする。   「だ、だって、何書いたらいいかわかんないんだもん〜」 「早くしないと、七夕終わっちゃうよ〜」   正直言うと、願い事がないわけではない。 むしろたくさんある。 欲しいものはたくさんあるし、テストで満点取れますようにとか、お金持ちになれますようにとか、健康に過ごせますようにとか……思いつくものはたくさんある。 でも、いざ一つ何か願い事を書くとしたら……。 そう思うと、どれもしっくりこないのだ。 もっと何か、心躍るような何か、そんな願いがどこかにあるような気がして。 「じゃあ、私これ吊るしてくるね〜」 「うん、じゃあまたね〜!」   小走りで優奈が去っていく。 穂詩歌と絵里も再び歩き始め、ほどなくしていつもの分かれ道についた。   「じゃっ、穂詩歌、またね〜! 早く願い事決めるんだよ〜」 「う、うん〜…。またねーっ!」
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