1-2★七夕祭り(2)

1/3
前へ
/14ページ
次へ

1-2★七夕祭り(2)

そこから少し森の方角に歩いていくと、穂詩歌のうちだ。 森というのは“オソロシの森“と呼ばれていて、決して近づいてはいけないと小さい頃から言われいる、いわくつきの森だ。 一歩でも足を踏み入れれば、生きては戻ってこられない、危険な森だと教え込まれている。 だから誰もその森には近付かない。 昔、みんなで森の目の前までは行ってみたことがある。 けれどその森から流れてくる不穏な空気が恐ろしくて、みんなすぐに全速力で走って離れた。 そのオソロシの森に、穂詩歌の家は誰の家よりも近い。 とは言え、それなりの距離は離れているのだが、小さい頃は夜になる度に震えていた。 遠くから誰かが呼ぶような声が聞こえる気がして、何かに引き込まれてしまいそうで恐ろしかったのだ。 最近はもう大分慣れたけれども、やっぱり夜になるとちょっぴり怖い。 「ただいま〜!」 「おかえりなさい〜。お鍋、テーブルに置いておいてね」 「は〜いっ!」   お母さんは台所で、せっせと食器や道具を洗っている。 大人気のスープやさんなので、洗う食器の数も村人分ある。 「お父さんは?」 「まだみたい〜。まあ、全部片付けるのはもうちょっとかかるんじゃないかしら」 力のある男性は、お祭りに使ったテントなど、大きなものをみんなで片付ける。 明日にすればいいのに、と穂詩歌は毎年思うのだが、明日は明日で仕事があるらしい。 「これ、早く書かなきゃなあ〜……」 穂詩歌はポケットから短冊を取り出し、ひらひらとさせる。 「あら穂詩歌、まだ願い事書いてなかったの?」 「う、うん……」 「こっちの片付けは終わりそうだし、早く書いてつるしてきちゃいなさい」 穂詩歌はなんとも言えない返事をしながら、自分の部屋からペンを探す。 願い事が決まるまで探しているつもりでいたが、引き出しを開けたら一瞬で見つかってしまった。 「早くしないと、今日が終わっちゃうわよ」 「じゃ、じゃあ〜行ってくる〜」 「暗いから気をつけてね〜。帰りはお父さんと帰ってくるといいわ」
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加