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1-2★七夕祭り(2)
そこから少し森の方角に歩いていくと、穂詩歌のうちだ。
森というのは“オソロシの森“と呼ばれていて、決して近づいてはいけないと小さい頃から言われいる、いわくつきの森だ。
一歩でも足を踏み入れれば、生きては戻ってこられない、危険な森だと教え込まれている。
だから誰もその森には近付かない。
昔、みんなで森の目の前までは行ってみたことがある。
けれどその森から流れてくる不穏な空気が恐ろしくて、みんなすぐに全速力で走って離れた。
そのオソロシの森に、穂詩歌の家は誰の家よりも近い。
とは言え、それなりの距離は離れているのだが、小さい頃は夜になる度に震えていた。
遠くから誰かが呼ぶような声が聞こえる気がして、何かに引き込まれてしまいそうで恐ろしかったのだ。
最近はもう大分慣れたけれども、やっぱり夜になるとちょっぴり怖い。
「ただいま〜!」
「おかえりなさい〜。お鍋、テーブルに置いておいてね」
「は〜いっ!」
お母さんは台所で、せっせと食器や道具を洗っている。
大人気のスープやさんなので、洗う食器の数も村人分ある。
「お父さんは?」
「まだみたい〜。まあ、全部片付けるのはもうちょっとかかるんじゃないかしら」
力のある男性は、お祭りに使ったテントなど、大きなものをみんなで片付ける。
明日にすればいいのに、と穂詩歌は毎年思うのだが、明日は明日で仕事があるらしい。
「これ、早く書かなきゃなあ〜……」
穂詩歌はポケットから短冊を取り出し、ひらひらとさせる。
「あら穂詩歌、まだ願い事書いてなかったの?」
「う、うん……」
「こっちの片付けは終わりそうだし、早く書いてつるしてきちゃいなさい」
穂詩歌はなんとも言えない返事をしながら、自分の部屋からペンを探す。
願い事が決まるまで探しているつもりでいたが、引き出しを開けたら一瞬で見つかってしまった。
「早くしないと、今日が終わっちゃうわよ」
「じゃ、じゃあ〜行ってくる〜」
「暗いから気をつけてね〜。帰りはお父さんと帰ってくるといいわ」
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