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「ワーッ! ラッキー! 流れ星さんに直々にお願い事できるなんてっ! うーんっとね、えーっとね〜、どうしよーっ! うーんっと、テストで良い点が取れますように! でしょ、それから、足が速くなりたい! でしょ、美味しいものがいっぱい食べれますように、あ、お金持ちになりたい! あと……」
「あのねえ!」
次から次へと言葉を浴びせてくる穂詩歌にたまらなくなって、流れ星は強めの声を上げた。
弱っているところ全力を投球したのか、ゼーハーゼーハー荒い呼吸をしている。
「願い事は、流れ星が流れている時に、三回、唱えなきゃ、意味ないんだよっ……ぼくはもう、流れ切ってしまったただの星さ」
最後まで言い切ると、ゆっくり呼吸を整えるように息を吸ったり吐いたりしている。
「そっかぁー……」
さっきまでの勢いはどこへやら、穂詩歌は一気にしゅんとなった。
どちらもしばらく何も言わないので、辺りがしんとなる。
その静寂を埋めるかのように、風が吹き、木々がざわめく。
遠くから、ゴーッとうめき声のような音がした。
風がやみ、再び静寂が二人を包む。
あまりにも残念そうな様子の穂詩歌を見てさすがにかわいそうになったのか、流れ星はその体の真ん中についた両目と口を優しくゆるめた。
「……まあ、でも……ぼくを空に帰してくれたら、君の願いを一つ叶えてもいいよ」
その言葉に、穂詩歌はバッと顔を上げた。
嬉しそうに目をまん丸に輝かせている。
「えっ、ホント?!」
「本当」
流れ星は真っ直ぐな目で答える。
「絶対、絶対ね? 約束だよ?」
「ああ、約束するよ。ちゃんとぼくを空に帰してくれればね」
「ヤッターッ! ありがとうっ、星さん!」
その勢いのまま再び抱きつこうとする穂詩歌だったが、流れ星が「ハアーッ」と大きくため息をついたので開いた両腕を、静かに下ろした。
「だからさ、"星さん"はやめてってば」
「あ、ごめん、流れ星さん」
「違う違う違う!」
流れ星は必死に穂詩歌を制す。
「……へ? だって流れ星なんでしょう?」
森の木々がさわさわと音を立て、夜風が二人をかすめる。
「星だし流れ星だけど……ぼくにだって名前があるんだ。ぼくは”アス”」
「アス」
穂詩歌は初めて聞いたその名前を、大切にかみしめるように口にした。
「私は穂詩歌!」
「穂詩歌……素敵な名前だね」
アスは心からそう思ったらしく、すごく優しい顔で言った。
「ありがとう。私も気に入ってるの」
穂詩歌の全身から喜びが溢れ出す。
アスとは仲良くなれる、そんな気がした。
根拠のない確信に笑みをこぼすと、彼を前に抱えて立ち上がった。
持ち上げてみるとその体は、意外とずっしりとした重みがあった。
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