8.悲しいデート

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「久しぶりに会えたと思ったらやたら可愛い恰好してくるし、お前は本当に俺を翻弄するのがうまいな」 私の肩に頭を預けて、声を漏らす。 「な、なに言ってるの。周りに見られてるわよ」 大企業の御曹司が街中で抱き合っている、なんて噂でも立てられたら一大事だ。 「構わない。お前が俺のものだと周囲にわかれば変な虫も寄ってこないだろ」 「私に言い寄る物好きな人なんていません」 「お前の自己評価と危機管理能力の低さには昔から驚くよ」 ……なんだか、とんでもなく失礼な言い方をされていると感じるのは気のせいだろうか。 「今日は俺が一緒にいるからいいが、もう少し自分について理解しろよ」 ため息を吐きつつ、匡が私の体を解放する。 その後、するりと私の左手に長い指を絡める。 私よりも少し高めの体温が伝わるこの瞬間が、とても好きだ。 優しく揺れる淡い想いに、頬が自然と緩む。 ジッと絡められた指を見つめていると、彼がほんの少し指に力を込め、胸の奥がじんわりと温かくなった。 久しぶりに訪れた水族館は、以前と変わらない賑わいを見せていた。 そこかしこで家族や恋人、友人同士で楽しく海獣たちを見つめている姿が目に入る。 ほんの少し薄暗い館内と僅かに聞こえる水の跳ねる音が高揚感を誘う。
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