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「鹿賀さんは行かれないのですか?」
無理やり話題を変え、視線を招待状に向ける。
「鹿賀は明日、社長の出張に同行予定だ」
専務秘書兼秘書室室長でもある鹿賀さんは、社長に同行する場合が多い。
元々鹿賀さんは社長秘書だったのだが、専務が就任した際に担当を変わったのだ。
恐らくそれは社長の、息子への采配と思いやりだ。
ちなみに副社長は専務の兄が務めている。
「ではほかの方々は?」
「それぞれの事情があって難しい。急に決まったパーティーらしくてな」
そんな偶然ってある?
仕事上何度か参加した経験があるが、華やかな場所は昔も今も苦手だ。
「頼む。適任者が長谷部しかいないんだ」
「……わかりました。ドレスコードはありますか?」
「ありがとう、助かるよ。今から用意するのは難しいだろうし、ドレスはこちらで手配する」
「いえ、あの、有難いお話ですが……」
「休日出勤を無理に頼むんだ。これぐらいさせてくれ。後で鹿賀にサイズを伝えてくれないか」
「ではドレスの代金を後で教えてくださいね」
私の言葉に峰岡専務は首を横に振る。
「休日出勤手当と友人からの遅れた誕生日祝いとでも思っておいてくれ」
そう言って旧友はふわりと相好を崩す。
優しい気遣いに小さく肩を竦める。
「……わかりました」
本来なら勤務先の上司、しかも専務からこんな好待遇を受けるわけにはいかないが、きっとこの人は頑として譲らないだろう。
私の友人はとても頑固だ。
「ドレスは朝一番に届ける。パーティーは午後六時からだ」
迎えに行く、と専務が付け加えた。
まさか、このパーティーが私の人生を大きく変えるとは予想もしていなかった。
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