8.悲しいデート

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「可愛い……!」 「お前本当にペンギンが好きだな」 ペンギンのプールの前で足を止めた私に、匡が苦笑交じりに言う。 「知ってたの?」 「お前の持ち歩いている文房具や待ち受け画面を見てたらわかる」 「でもほかの動物のもあるのに……」 「好きな女の好きなものはわかるだろ」 さらりと告げられ、鼓動がひとつ大きな音を立てた。 ああもう、この人はどれだけ私を翻弄するのだろう。 私のペンギン好きは蘭くらいしか知らない。 以前なにかの拍子に後輩にペンギンが好きだと告げたとき、とても驚かれた記憶がある。 私が小さく可愛いものを好むイメージがないらしい。 「じゃあ匡はなにが好きなの?」 「なんだと思う?」 片眉を上げる、その仕草さえカッコいいなんて反則だ。 「……藤宮副社長?」 私の背後から突如匡を呼ぶ声がした。 「五十嵐? 偶然だな」 匡の声に振り返ると、デニムパンツ姿の五十嵐さんが立っていた。 「まさか今日、ここでお会いするとは思いませんでした。貴重なお休みなんですから少しは体を休めてください。ずっと徹夜続きでしたのにお体は大丈夫ですか?」 会話の合間に、五十嵐さんがチラリと私に視線を向ける。 「失礼を承知で伺いますが、長谷部さんは副社長のスケジュールをご存知ですか?」 「いえ、詳しくは……」 「五十嵐、眞玖は他社の人間で、今は完全にプライベートな時間だ。俺がどこでなにをしていようと責められるいわれはない。そもそも息抜きに眞玖を誘ったのは俺だ」 穏やかな口調から一転して、匡は若干キツイ口調で五十嵐さんに告げる。
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