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「……本当に色々な表情をお持ちですよね」
匡から少し離れ、私の隣に立った五十嵐さんが、独り言のようにつぶやく。
「仕事も周囲への気遣いも、そのうえ容姿さえも完璧で。あんなに素敵な上司に出会ったのは初めてです」
匡が栞ちゃんの頭を優しく撫でる姿を、五十嵐さんが目を細めて見つめる。
その横顔に憧れ以上の感情を垣間見た気がして、心が落ち着かない。
栞ちゃんはどうやら匡をずいぶん気に入った様子で、先ほどからずっと彼の指を握って離さない。
相手をしている彼は、私たちの会話に気づいていないだろう。
「薄々ご存知かと思いますが、私は藤宮副社長に惹かれています」
五十嵐さんは私と向き合い、はっきりとした口調で言い切る。
「長谷部さんが藤宮副社長の大切な方なのはもちろん知っています。でも私には藤宮副社長にあなたが相応しいとは思えません」
「……どうして?」
尋ねる声が思った以上に掠れた。
震えそうになる足に必死に力を込める。
「長谷部さんは藤宮副社長の状況や立場をまったく理解されてませんよね。失礼ながら一般社員の長谷部さんに、今後藤宮副社長を支える力があるとは思えません。しかもご自身の業務と仕事を優先されるなんてありえません」
真っ向から投げつけられた言葉に、一瞬目の前が真っ白になった。
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