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「ねえ眞玖、本当に行かないの?」
「行かない」
「今回は商社マンなのよ! 噂では相当イケメンの豪華メンバー揃いらしいわよ」
「それ、どこから出た噂よ? 大体まだ仕事が終わっていません」
興奮する親友を尻目にため息を吐きつつ、返答する。
「もう、せっかく今日の眞玖の髪とメイク、服装も素敵なのにもったいない」
親友が、私の釣り目がちの二重の目をじっと見つめる。
鎖骨辺りで切りそろえた髪を、今朝は時間に余裕があったので軽く巻いてみた。
ちなみに今日の服装はベージュのノーカラーのパンツスーツだ。
「あのね、仕事と将来の伴侶選び、どっちが大切なの?」
「仕事」
「その迷いのない返事が本当に嫌!」
「聞いたのは蘭でしょ」
読みかけの後輩の企画書から視線をずらし、眼前の同期に言い返す。
定時を過ぎた金曜日の社内には、どこか浮足立った雰囲気が漂っている。
ここは私が勤務する、峰岡飲料株式会社の営業企画課フロアだ。
「即答する親友に泣きたくなるわ」
身長百六十センチの私よりやや小柄で、小鹿のように大きな目をもつ親友が、額に華奢な指をあてる。
同じ二十八歳とは思えない、輝く肌が羨ましい。
何事にも物怖じしない性格の親友は、コンパに行かずとも社内外の男性から充分にモテている。
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