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「本当に忙しいの。この企画チェックが終わったら、自分の企画書も作成しなくちゃいけないし」
「企画書って……ああ、“ハッピーカフェ”?」
親友の問いかけに小さく頷く。
「でもそれ、企画課長の眞玖の仕事なの?」
「違うけど……ハッピーシリーズだし」
「思い入れが強いのはわかるけど、固執していてもなにも変わらないわよ」
今までの軽い口調が嘘のように、蘭の声が真剣みを帯びる。
「わかってる。そんなつもりじゃないの」
口では否定しながらも、心に嘘はつけない。
「いい加減、恋心と仕事は切り離して考えなさいよ。手に入らない王子様より身近な存在に目を向けるのも大切よ」
「だから、違うってば」
……あの日のキスをもう何度、思い出しただろう?
「どうだか。ハッピーカフェの売れ行きは上々で、上層部も満足してるのに、季節限定商品の販売希望を出したらしいじゃない」
「よく知ってるわね」
親友は社内の情報にやたら詳しく、営業課長としての手腕もさることながら情報収集能力も非常に高い。
私の隣の空席に陣取った蘭は、緩く背中まで波打つ髪をかき上げる。
ハッピーカフェは発売したばかりのコーヒー飲料だ。
これまでも我が社にコーヒー飲料商品は多々あったのだが、他社に比べ販売量は激減していた。
そこで従来商品を刷新し、新商品を開発、販売することになった。
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