1.友人+仕事>恋人

6/10
前へ
/156ページ
次へ
「いっそ専務を片想いの相手にすればよかったのに。長年連れ添ってるんだから」 「何回も言ってるけど、専務はただの友人よ」 「社内と周囲の女子たちはそう思っていないわよ。なんでよりによって、あんな一筋縄じゃいかない御曹司に片想いするんだか」 さすが親友、遠慮なく痛いところを突いてくる。 「……私だって恋する相手を選べたらどんなにいいかと思うわよ」 だって、彼に私の想いは届かない。 「眞玖はなにかにつけて困難な道を選びたがるわよね。それが長所でもあり短所でもあるけど」 呆れたように蘭が小さな息を吐く。 四年近く一度も顔を合わせず、連絡すらない、学生時代からのもうひとりの友人。 『――だからお前はその日まで覚悟しておけよ?』 『もう、知らんふりはしない』 ねえ、あれはどういう意味? 空港で、口づけたのはなぜ? 自問自答を繰り返し、淡い期待をしては、何度打ち消しただろう。 彼のことはきっぱり忘れて前に進むべきだとわかっているのに、私の心は頑なに彼を想う。 二十代の四年間はあっという間に過ぎていくが、その輝きと重みは凄まじい。 もうすぐ二十九歳の誕生日がやってくる。 ……いい加減もう潮時だろう。
/156ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4511人が本棚に入れています
本棚に追加