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「よかった。じゃあこの藤宮商事のパーティーに一緒に参加してくれ。もちろん休日手当はきちんとつける」
一通の招待状が目の前に差し出される。
藤宮商事、という社名に鼓動が大きな音をたてた。
飲料業界において、言わずと知れた国内シェア第一位の大企業だ。
ちなみに我が社は第三位、四位といったところだ。
飲料開発のみならず、最近では自社の飲料を利用したカフェ事業などにも積極的に乗り出しており、ライバル企業でもある。
そして、“彼”の家族が経営する会社だ。
「新商品発表と新社屋完成披露パーティーだが、本音は夕実さんの結婚相手探しだな」
現在二十五歳の社長令嬢、夕実さんを藤宮社長夫人はうちの専務に嫁がせたがっているが、当人たちにはまったくその気がない。
「匡がいればうまく回避できるが、まだアメリカだからな」
私の心を何年も捉えて離さない、たったひとりの男性。
名前を耳にしただけで、今も胸がヒリヒリ痛む。
二十五歳のとき、海外に点在する支社に後継者修業のため旅立った。
藤宮商事の優秀な後継ぎで、峰岡専務の親友。
そして、夕実さんの実兄でもある。
以前はよく顔を合わせていたが、渡米後は連絡を取っていない。
なぜ私との接触を避けたのか考えるのが怖く、峰岡専務に近況を尋ねる勇気もこれまでなかった。
彼への想いを断ち切れないうえ、臆病な私は本当に救いようがない。
「もうすぐ四年か? 一度も帰国しないあたりが匡らしい」
「……そうですね」
精一杯平静を装って返答する。
勘の鋭いこの旧友にずっと隠し続けてきた想いを、今さら気づかれたくない。
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