8.悲しいデート

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「私のせいで負担をかけてしまっているので……」 「長谷部の友人として忠告するが、恋人を心配するのも大事にしたいと願うのも当然だろう。そのための負担や犠牲なんて苦でもなんでもない。むしろ本音を隠されたり、相手に無理をさせるほうがつらい」 専務が真剣な表情で淡々と口にする。 「副社長就任後の忙しさは匡が一番理解しているだろうし、元々わかっていたはずだ。長谷部が責任を持って自身の仕事をやり遂げるのと同じだ。長谷部が申し訳なさを感じる必要はない」 「でも私とでは、立場も責任の重さも違います」 「それならこの役職に就いた俺たちは、恋愛をしてはいけないのか? 好きな女を守るのが悪いことか? そもそも恋人同士は対等で立場の違いなんてないだろ」 落ち着いた口調で問われ、返答に窮する。 「世の中すべての男がどうかは知らないが、少なくとも俺の親友は、やっと手に入れた好きな女を全力で甘やかしたがってる」 露骨な言い方に耳がカッと熱をもつ。 自分の恋愛話をこの友人とするのは初めてで、どこか気恥ずかしい。 「お互いに唯一甘えられる存在が恋人だろう。長谷部は誰に、なにに、遠慮をしている? 長谷部のその態度を匡が喜ぶと思うか? やっとふたりの関係が落ち着いたと思ったら今度はなにを拗らせてるんだ」 呆れたように肩を竦めた専務の言葉が、心の奥底にストンと落ちる。
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