8.悲しいデート

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「長谷部には言うなと口止めされていたが……匡はここ二日ほど徹夜で、ほぼ会社に泊まり込んでいるぞ」 「え……?」 「それでもアイツは僅かな時間を捻出して、長谷部に会いに行った」 この意味がわかるか、と専務が畳みかけてくる。 それほど多忙な中で私にメッセージをくれて、会いに来てくれたの? 脳裏に昨夜の匡の姿が浮かぶ。 大変な最中に来てくれたのを喜ぶ気持ちと、なぜ自身の状況を教えてくれなかったのかと相半する感情がせめぎあう。 恋人の状況ひとつ知らないで、彼女だと、婚約者だと、胸を張って言えるだろうか? 情けなさと後悔で胸の奥がヒリヒリ痛む。 「私、なんで気づけなかったのか……」 「おいおい、自分を責めろとは言ってないぞ。匡は長谷部の性格をよく知っている。事実を伝えたら過剰に心配して、体を休めろと会うのを拒否するだろ?」 「当たり前じゃない!」 思わずいつも通りのくだけた口調に戻ってしまう。 反論する声が僅かに掠れる。 「会いに来てくれるのは嬉しいけど、無理はしてほしくない。なにより匡の体調が心配だもの。どうして匡は専務にはなんでも話して私には教えてくれないの?」 「彼女と友人の立ち位置は違うだろ。男は幾つになっても好きな女の前でカッコつけたい生き物なんだよ」 呆れたように肩を竦める専務をじっと見つめる。 私の不満が伝わったのか、専務は小さく嘆息した。
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