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専務が長い指で受話器をとる。
「はい……ああ、わかった。すぐに出る」
「お忙しいところお時間をいただき申し訳ございません」
受話器を置いた瞬間に告げる。
きっと外出の準備が整ったという報告だろう。
「仕事がらみの推測と気遣いは完璧なのに、なんで匡には無器用なんだ? とにかく匡との関係で悩んだらきちんと言えよ。ひとりで抱え込むな。友人としての助言だ」
「……申し訳ございません」
「謝らなくていい。できるだけ早くふたりできちんと話し合え。やっと想いが通じたんだから幸せになるべきだろ。ところで長谷部、話は変わるが五十嵐の御曹司に言い寄られてるらしいな?」
目を細めた副社長に瞬きを繰り返す。
さすがよく知っている。
一体どこから情報を得ているのか甚だ疑問だが。
「ドアを開け放した応接室での目立った会話が、俺の耳に入らないわけないだろう。匡は知っているのか?」
「いえ……でも五十嵐さんにはきちんとお断わりしています。それに先方が本気かどうかも……」
「長谷部、一応忠告しておくがアイツの独占欲を甘く見るなよ」
どこか疲れたように友人は複雑な表情を浮かべている。
「失礼いたします」
軽快なノック音の後に鹿賀さんが入室してきた。
「専務、準備が整っております。長谷部さん、お話し中に失礼いたします」
「いえ、お忙しいときに申し訳ございません」
「くれぐれも長谷部さんを困らせないようにと、専務に申し上げて報告したのですが……」
鹿賀さんが私に、気遣わし気な視線を向ける。
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