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きっと匡はこの突然のデートの誘いが、私をどれだけ幸せにしているか知らないだろう。
自然と頬が緩むのを抑えられない。
胸の奥がじんわりと温かくなる。
再考した服をハンガーにかけベッドに潜り込むが一向に眠気がやってこない。
何度も寝返りをうち、きつく目を瞑って眠れぬ夜をやり過ごした。
翌朝、起床して、慌ただしく身支度を整える。
いい年をして恋人とのデートひとつに右往左往しているなんて、恥ずかしすぎる。
結局眠りに落ちたのは夜もずいぶん更けた時間だった。
今日の服をかけたハンガーを手に取る。
薄手の白のセーターに紺色のパンツを穿き、レンガ色のコート風ワンピースを羽織る。
髪はひとつに緩くまとめ、姿見の前でおかしいところはないか確認して家を出た。
水族館のある最寄駅に到着したのは、待ち合わせ時間の十五分ほど前だった。
周囲に匡の姿は見当たらず、少し落ち着こうと深呼吸をする。
仕事関係の待ち合わせですらこれほど緊張しないのに、どうして相手が匡だとこんなに余裕がなくなるのだろう。
「ねえ、あの人すごくカッコいい!」
「足も長いし、顔小さすぎでしょ」
「もしかして、芸能人?」
「誰かと待ち合わせかな? 声かけてみる?」
突如周囲から女性たちの甲高い声が聞こえて、頭を動かす。
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