8.悲しいデート

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きっと匡はこの突然のデートの誘いが、私をどれだけ幸せにしているか知らないだろう。 自然と頬が緩むのを抑えられない。 胸の奥がじんわりと温かくなる。 再考した服をハンガーにかけベッドに潜り込むが一向に眠気がやってこない。 何度も寝返りをうち、きつく目を瞑って眠れぬ夜をやり過ごした。 翌朝、起床して、慌ただしく身支度を整える。 いい年をして恋人とのデートひとつに右往左往しているなんて、恥ずかしすぎる。 結局眠りに落ちたのは夜もずいぶん更けた時間だった。 今日の服をかけたハンガーを手に取る。 薄手の白のセーターに紺色のパンツを穿き、レンガ色のコート風ワンピースを羽織る。 髪はひとつに緩くまとめ、姿見の前でおかしいところはないか確認して家を出た。 水族館のある最寄駅に到着したのは、待ち合わせ時間の十五分ほど前だった。 周囲に匡の姿は見当たらず、少し落ち着こうと深呼吸をする。 仕事関係の待ち合わせですらこれほど緊張しないのに、どうして相手が匡だとこんなに余裕がなくなるのだろう。 「ねえ、あの人すごくカッコいい!」 「足も長いし、顔小さすぎでしょ」 「もしかして、芸能人?」 「誰かと待ち合わせかな? 声かけてみる?」 突如周囲から女性たちの甲高い声が聞こえて、頭を動かす。
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