8.悲しいデート

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視線の先には駅前の角の柱に凭れ、黒のパンツに包まれた長い足を軽く交差している匡がいた。 カーキ色のブルゾンを羽織り、伏し目がちにスマートフォンを操作している姿は文句なしにカッコいい。 数十メートルの離れた場所にいる彼をじっと見つめる。 ふいに頭を上げた匡に、行きかう女性たちの足が止まる。 けれど彼はそんな視線を気にも留めずに、周囲を見回す。 「眞玖」 私を見つけた匡がふわりと相好を崩すと、近くにいた女性たちが一気にざわめきだす。 「待ち合わせ相手がいたのね」 「もしかして彼女?」 突き刺さる視線が居たたまれず、思わずうつむく。 「――可愛いな」 突如耳元近くで響いた甘い声に、顔を上げる。 眼前にはいつの間にか移動したらしい婚約者がいた。 「匡……」 「普段のカッチリした服装も似合ってるけど、こういうのも可愛いな」 「え……あの、可愛くなんて……匡のほうがカッコいいでしょ」 真っすぐな賛辞に慌てて答えると、匡は長い腕で私を引き寄せ胸の中に抱きこんだ。 「ちょっと、匡? どうしたの?」 「眞玖……会いたかった」 掠れた声で名前を呼ばれ、ギュッと強く抱きしめられる。 切なさの交じった声に、胸の奥が甘く痺れた。 会いたかったのは私も同じだ。
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