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視線の先には駅前の角の柱に凭れ、黒のパンツに包まれた長い足を軽く交差している匡がいた。
カーキ色のブルゾンを羽織り、伏し目がちにスマートフォンを操作している姿は文句なしにカッコいい。
数十メートルの離れた場所にいる彼をじっと見つめる。
ふいに頭を上げた匡に、行きかう女性たちの足が止まる。
けれど彼はそんな視線を気にも留めずに、周囲を見回す。
「眞玖」
私を見つけた匡がふわりと相好を崩すと、近くにいた女性たちが一気にざわめきだす。
「待ち合わせ相手がいたのね」
「もしかして彼女?」
突き刺さる視線が居たたまれず、思わずうつむく。
「――可愛いな」
突如耳元近くで響いた甘い声に、顔を上げる。
眼前にはいつの間にか移動したらしい婚約者がいた。
「匡……」
「普段のカッチリした服装も似合ってるけど、こういうのも可愛いな」
「え……あの、可愛くなんて……匡のほうがカッコいいでしょ」
真っすぐな賛辞に慌てて答えると、匡は長い腕で私を引き寄せ胸の中に抱きこんだ。
「ちょっと、匡? どうしたの?」
「眞玖……会いたかった」
掠れた声で名前を呼ばれ、ギュッと強く抱きしめられる。
切なさの交じった声に、胸の奥が甘く痺れた。
会いたかったのは私も同じだ。
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