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新学期
毎年、この季節が来ると憂鬱になる。
新しい学年。新しいクラス。
知っている顔と知らない顔が混ぜこぜの教室。
高校三年になった香原瑞希(コウハラミズキ)は、その中で知っている顔を見つけ、少しホッとして声を掛けた。
「よう、前沢。今年もよろしくな」
「おー!同じクラスだったんだ、香原。宜しくう」
前沢は、軽い調子でイェーイとハイタッチの仕草をする。
別に嬉しかないけど。
「イェーイ」と言ってハイタッチに応えた。
茶髪で細い眉、見るからにチャラそうな前沢郁(マエザワイク)は、本当に見た目通りの奴。
表面上は、仲良くしているけれど、心を開いたことは無かった。
「香原くん、前沢くんイケメンコンビじゃーん」
「ほんとー、このクラス当たりだねえ」
クルクルと長い髪を指で巻き付けながら、よく知らない女子達が話し掛けてきた。
「お、そうなの?俺らイケメンコンビだって!」
前沢が、嬉しそうに言ってスマートフォンを取り出した。
「連絡先、交換しようよ」
と女の子達に話しかける。
「いいよー、カラオケとか行こうよ」
軽いノリで会話が弾んでいく。
瑞希も流されるままに連絡先を交換した。
「瑞希くんって言うの?やだあ!可愛いっ」
二人の内の1人、セミロングのセンター分け女子が必要以上に声を張り上げた。
「そうなんだよ。女みてぇだろ?」
うるせえ…と心の中で言う。
身長は、180あるし、バイトで肉体労働をすることもあるのでガタイはデカい。
それなのに瑞希なんて言う名前が不釣り合いで、いつも新学期にこういう反応をされる。
正直、面倒だけれど、学校で上手くやるには、こうやってヘラヘラするしかない。
「そうなんだよー、瑞希ちゃんっていうの!可愛いだろ?」
前沢が腕を絡めてきて、イラッとした。
これ以上弄られたらキレそうだ、と言うところで、もう1人の巻き毛の女子が「えー?普通じゃん。今は、そういう名前多いよ?」とシラッと言った。
見た目より、クールなタイプのようだ。
「あ、まあそうだよね」
とセンター分けが気遣うように言う。
それだけで、二人の関係が分かるようだった。
学校っていうのは、小さなバトルがこうやって毎日繰り広げられている。
どちらかが気を遣い、どちらかが遣われる。
正直、うんざりするけれど、その渦から逃れることは出来ないし、逃げるつもりも無かった。
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