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「えーと、そしたら自己紹介してもらおうかな」
美緒は、出席簿を眺めながら言った。
「先生もしてよー」
前の方の女子から声があがり「ほんと、聞きた〜い」と皆が騒ぎ出す。
「俺も俺も、聞きたぁい」と前沢が言って、女子達がクスクス笑う。
「そうかー、じゃあ…」
そう言って美緒は、背中を向け、黒板に文字を書き始めた。
『門林美緒カドバヤシミオ 28歳 独身 男 趣味 お酒を呑むこと。 好きなお酒は ビールと芋焼酎とワイン 以上』
「何それー、お酒のことしか書いてないじゃん」
みんながワイワイと騒ぎ出す。
「だって好きなんだよー、しょうがないじゃん」
美緒がそう言ってニコッと笑うと、女子達は、きゃーかわいーとまた騒ぎ始めた。
「さあ、次はみんなの番。端のアダチからよろしくね」
美緒が促して自己紹介が始まった。
順番に名前がよばれ、瑞希の番になる。
「香原瑞希です。趣味は…金儲けです」
バイトばかりしている、と言われているので、瑞希はふざけるつもりでそう言った。
男子達がドッと笑い、女子は引いている。
「はい、ありがとう、香原。先生も金儲けは大好きだよ」
そう言って美緒は、瑞希にニコリと笑いかけた。
とくん…と心臓が跳ねる。
男にこんな気持ちになるなんて、どうかしている。
瑞希は、動揺を誤魔化すようにガタン、と大きな音を立てて椅子に座った。
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