秘密

2/5
前へ
/68ページ
次へ
その日は、道路工事現場で交通整備のバイト。瑞希は着替えて現場に向かった。 深夜なので、時給も良い。 「お疲れ様です」と挨拶をし、持ち場についた。 ヘルメットを被り、走って来る車を止めたり誘導したりする。 数時間後、休憩時間になり、炭酸のペットボトルを買って現場から少し離れた場所に座った。 道行く人々を見るとは無しに眺める。 これから出勤するであろう水商売風の女性。 団体で騒ぎながら歩く若い男女。 身体を密着させて歩く二人連れ。 みんなこれからどう過ごすのかなあ… そんなことを思いながら見ていると、1組のカップルが路地の中から出てきた。少し違和感を感じ、瑞希は目を凝らす。 …あれって男同士だよな… いくら片方が華奢でも男だということは分かる。 何となく好奇心で、飲み終えたペットボトルを捨てる為に、大通りのほうに出た。 …え?あれって…門林先生じゃね? そこにはガタイのよい男と寄り添って歩く美緒の姿があった。 腰に手をまわされ、何か囁かれている。 ドキンドキン…と心臓が鳴る。 そして同時に何故か興奮している自分がいた。 美緒の昼間と違う姿に、目が離せなくなる。 あまりに見ていたせいで、美緒がこちらに気がついてしまった。 ヘルメットを脱いでいたので、すぐに瑞希だとバレる。 美緒は、連れの男に何か耳打ちして、こちらに歩いて来た。 瑞希は動くことが出来ず、棒立ちする。 「お疲れ様。バイト?」 美緒は、瑞希に微笑みかけた。 「あ、はい…」 「バレちゃったねえ…」 「………すいません」 瑞希は、何故か理由もなく頭を下げた。 「けど、バレたのがキミで良かったよ」 そう言って瑞希の唇に人差し指を充てる。 「秘密にしてね?」 指が離れて言って、瑞希は恥ずかしさで身体中が熱くなる。 「はい……」 そう答えることしか出来なかった。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

79人が本棚に入れています
本棚に追加