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その日は、道路工事現場で交通整備のバイト。瑞希は着替えて現場に向かった。
深夜なので、時給も良い。
「お疲れ様です」と挨拶をし、持ち場についた。
ヘルメットを被り、走って来る車を止めたり誘導したりする。
数時間後、休憩時間になり、炭酸のペットボトルを買って現場から少し離れた場所に座った。
道行く人々を見るとは無しに眺める。
これから出勤するであろう水商売風の女性。
団体で騒ぎながら歩く若い男女。
身体を密着させて歩く二人連れ。
みんなこれからどう過ごすのかなあ…
そんなことを思いながら見ていると、1組のカップルが路地の中から出てきた。少し違和感を感じ、瑞希は目を凝らす。
…あれって男同士だよな…
いくら片方が華奢でも男だということは分かる。
何となく好奇心で、飲み終えたペットボトルを捨てる為に、大通りのほうに出た。
…え?あれって…門林先生じゃね?
そこにはガタイのよい男と寄り添って歩く美緒の姿があった。
腰に手をまわされ、何か囁かれている。
ドキンドキン…と心臓が鳴る。
そして同時に何故か興奮している自分がいた。
美緒の昼間と違う姿に、目が離せなくなる。
あまりに見ていたせいで、美緒がこちらに気がついてしまった。
ヘルメットを脱いでいたので、すぐに瑞希だとバレる。
美緒は、連れの男に何か耳打ちして、こちらに歩いて来た。
瑞希は動くことが出来ず、棒立ちする。
「お疲れ様。バイト?」
美緒は、瑞希に微笑みかけた。
「あ、はい…」
「バレちゃったねえ…」
「………すいません」
瑞希は、何故か理由もなく頭を下げた。
「けど、バレたのがキミで良かったよ」
そう言って瑞希の唇に人差し指を充てる。
「秘密にしてね?」
指が離れて言って、瑞希は恥ずかしさで身体中が熱くなる。
「はい……」
そう答えることしか出来なかった。
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