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「……えーと、たぶん、この辺りにいるはずなんだけどぉ」  すっかり通い慣れた空間で、ゆっくり静かに足を進める。でも、目線だけは素早く動かすの。 「あっ、いた。良かったぁ。うーん。やっぱり、とーっても目立ってますねぇ」  図書館の自習スペース。たくさんの利用者がひしめくその中で、探していた相手はとても簡単に見つけることができた。  いつもここで黙々と勉強してる、私の大好きな人だ。 「はあぁ……今日も、めちゃめちゃカッコいいですぅ。でも、もうちょっとだけ近くに寄って眺めてもいいでしょうか」  広げた問題集に集中するために俯いている、その横顔。サラサラの髪が頬にかかって、端整な横顔がいつもよりも色っぽく見えるのが堪らないです。  だから、あと少しだけ、近づきたいの。あと少しだけ、あなたの傍に……。  ――ガタッ 「いったあぁぁっ」  息が止まるほどの痛みに襲われ、その場にうずくまる。  気が急いていたための、うっかり。最短距離で回り込もうとしたら、柱に作りつけの木椅子に向こうずねを打ちつけちゃった。 「痛ぁ……あ、血が出てる。最悪ー」  痛みで涙が出てくるなんて、ひさしぶりだ。それくらい痛い。よそ見してたから、思いっきりぶつけたんだ。 「花宮ちゃん。足、大丈夫か? 立てる?」  うずくまったまま出血した部分にハンカチを当ててたら、目の前に手が差し出された。  顔を上げると、眼鏡の男の子が心配そうに覗き込んできてる。まだ声はかけてなかったのに、私に気づいて来てくれたんだ。嬉しい。 「うぅっ。大丈夫ですけど、すごく痛いです。でも、ご心配ありがとうございます。――武田くん」  差し出された手に捕まりながら、心配してくれたことの御礼を言った。黒縁眼鏡がとてもよく似合う、私の王子様に。
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