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 『同じまがり角で3回転ぶと死ぬ』って噂、聞いたことある?  ……知らない? じゃあ、ウチの町だけにある都市伝説なのかな。土地柄かどうにもその手の話が多くてさ。怖がりには住みにくい場所だよ、ほんとに。  都市伝説の多くはオカルト的原因のないものが殆どだけど、この噂にはちゃーんと原因がある。俺は、実際に見たことがあるから知ってる。  あれはまがり角に棲んでる怪異が原因なんだ。  ―――そいつ名前は、『()』という。  小学生の頃、学校の裏山の近くを通って帰る時期があった。  仲が良かった子が裏山の近くに住んでいたから、途中まで一緒に帰るために少しだけ遠回りをしていたんだ。  その子は良く転ぶ子だった。  学校の階段を踏み外すなんて日常茶飯事だし、体育の授業ですっころんで保健室に行くことも珍しくない。彼の膝小僧はいつだってたくさんの絆創膏に隠されていた。  ある日の事だ。  俺はいつも通り、その子と、同級生の海原と一緒に帰り道をのろのろと歩いていた。 「うわっ」  裏山の獣道が合流する曲がり角で、彼が突然大声をあげた。飛び上がって尻餅をつくようにしてひっくり返る。その足元を白い猫がすり抜けて住宅街の方へ駆けていくのが見えた。猫に驚いて転んだのだろうと思った。さっきも言ったけど、彼が転ぶのは別に珍しい事ではないから。彼自身も「また転んじまったよ」なんて笑って、気に留めた様子もなかった。  その次の日も、彼は同じところで転んだ。足元から同じように猫が飛び出してくる。今度は茶色の斑がある三毛猫だ。  けれど、どうしてだろうか。俺はその時、この猫が昨日の白猫と同じ猫であるような、妙な予感めいたものを感じていた。  そして予感はすぐに確信になる。 「どうした?」 「いや、猫が……」 「猫?」  彼はきょと、と小首を傾げた。そこにいた猫が見えていなかったような、奇妙な反応。  なおん  近くで猫が鳴いた。  すぐ近く、けれど姿は見えない。  俺は背筋がうすら寒くなるのを感じた。猫を恐ろしいと思ったのは、その時がはじめてだった。  その翌日の事だ。  彼が裏山で転んで足の骨を折ったのは。  病院に見舞いに行くと、右足に分厚いギプスを嵌めて布で吊るようにして横になる彼が「まぁた転んじまってさぁ」なんてカラカラと笑っていた。  後遺症が残るような怪我でもなかったから彼自身にすら、あまり気にした様子はなかったけど、俺はとても笑う気にはなれなかった。  だって、猫の鳴き声がするんだ。  なあ。  なあん。  なう。  感情のこもらない、間延びした呼び声。  耳の奥をなめ回すように耳障りなそれらは、彼の曲げられた膝から聞こえてきた。  俺たちの傍にいる猫は本当にただの猫か?  猫の形をした別の何かではないだろうか。猫に限らず、当たり前にそこにあるものが、目に見えた通りのものだという確証がどこにあるんだろう。  この町にいると、時々不安になる。  まあとにかくそれ以来、俺は猫に触ることができない。
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