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みんなで幸せ
もう四月だというのに、冷たい風が吹き抜ける。通学路に積もった桜の花びらは、紙吹雪のように舞い上がった。
小学校の東門前を出て数メートル進むと、所々、捲れるように剥がれた塗装が年季を漂わせる歩道橋がある。
一年生になって間もない優くんはしっかり者だ。
重たそうな荷物を両手で持ち、歩道橋をゆっくりとのぼるお婆さんを見つけた。
「あ、ちえ子おばあちゃんだ」
優くんは歩道橋を目指して駆け出す。背中よりも大きく、優くんお気に入りの青いランドセルが背中でスキップした。
段差の大きな歩道橋の階段を一段づつ駆け上がり声をかける。
「ちえ子おばあちゃん。おてつだいするよ!」
おばあちゃんはゆっくりと振り向き優くんを見る。
「おや、おや。すっかりお兄さんになったねぇ。いいのかい?」
「うん!」
優くんは、額を濡らしながらも反対側の歩道までへこたれることなく荷物を運んだ。
「ありがとう、助かったよ」
短パンの中にしまってあった体操服の裾の半分が、短パンから出てしまっている。そんなことはお構い無く、優くんは眩い笑顔で凛としていた。
「おばあちゃんね、今はこれしか持ってないなぁ。優くんにこれをあげよう。ソーセージは好きかい?」
「いいの?」
ちえ子おばあちゃんはにっこりと頷く。
「やったー! 優くんね、ソーセージ大すきなの」
歩道橋を戻り通学路の歩道へ降りると、猫のか細い鳴き声が聞こえた。優くんは、辺りを見回し鳴き声のするほうへ進む。
歩道橋の階段の裏側に、母猫と二匹の仔猫がいた。仔猫たちは、母猫からもらった食べ物を必死に食べている。母猫はぐったりとして疲れているようだった。
「お母さんネコさん。おなかすいてるの?」
母猫は近付いてきた人間に警戒し頭を持ち上げたが、体を動かせるほどの元気はなかった。
「優くんね、ソーセージあるよ」
そう言って、大好きなソーセージのビニールを全て剥き、一本全部を母猫の口元に置いた。
「おたべ」
母猫はソーセージの端を咥えた。母猫がそれを食べるものだとばかり思っていた優くんは、母猫の行動に驚いてソーセージを急いで取り上げてしまう。
仔猫たちにあげようとしたのだ。お腹が空いているはずなのに、疲れているはずなのに、目の前のソーセージを我が子にあげようとしたのだ。
母猫に食べて欲しかった優くんは、ソーセージを半分に折った。そしてその片方を更に半分に折った。
「優くんちはね、おやつを食べるときは、にいにとはんぶんこするんだよ。優くんのお母さんがいつも言うの、みんなでしあせになろうねって」
優くんは折ったソーセージを三匹の猫に配った。
「ネコさんも、みんなでしあせになってね」
お わ り 🐾
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