ミテハイケナイ

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 ——その後、近くのスーパーとコンビニで大量のお菓子とジュースを買い込んだ私達は、私の自宅であるマンションへと着くと、1階にあるエレベーターホール前で足を止めた。 「……おっも〜い!」 「ちょっと、買いすぎちゃったね」  どうやら、あまりの楽しさに少し買いすぎてしまったらしい。その場に荷物を下ろすと、クタクタになった手足を軽く揉み(ほぐ)す。 (これはきっと、明日は筋肉痛だなぁ……)  そんな事を考えながら、目の前のエレベーターを見上げる。どうやら、8階で止まっているようだ。 (……もう少し休憩しよ)  そんな事を考えながらフーッと大きく息を吐くと、疲れた身体を脱力させる。  築10年程の、どこにでもある8階建のマンション。その2階部分に住んでいる私は、普段ならタイミングよくエレベーターが来ない限り、こうして待つ事なく階段で2階へと上がってしまうのだけれど……。流石にこの荷物と疲労だ。今日は、迷わずエレベーター1択だった。  7階、6階と、地上に向けて動き出したエレベーターを確認した私は、床に下ろした荷物を再び抱えると、降りる人の邪魔にならないよう少し端へと移動する。そんな私の動きに気付いた里香も、再び荷物を抱えると私の隣に移動した。  そのまま3階、2階と地上へと向かって近付いてくるエレベーター。  ———!!!!  1階へと降りてきたエレベーターを確認するや否や、私は持っていた荷物を床へと投げ捨てると、隣にいる里香の腕を掴んで一目散に2階へと駆け上がった。 (————っ! ヤバイ……っ!! ヤバイヤバイヤバイ!!! なんなの……っ、アレ——!!?)  ガラス張りになっているエレベーターの扉から視えた”アレ”は——明らかな殺意と憎悪に満ちていた。  今まで経験した事のない、腹の底から這い上がってくるような恐怖に、私の身体はガタガタと震え始めた。それでも、掴んだ里香の腕を懸命に引っ張りながら、自宅へと向かって必死に走り抜ける。  私は震えてうまく動かない右手でガチャガチャと鍵を開けると、そのまま里香を連れて勢いよく玄関の中へと飛び込んだ。未だ止まぬ恐怖にヘタリとその場に崩れ落ちると、ガタガタと震える身体を両手で抱き締める。 (なん……っ、なの……アレは——!!?)  ガラス越しに視えた、刃物片手に全身真っ赤な血を浴びた男性。まるで、その血生臭さが空間全体を充満し、その場を支配してしまうかのような生々しさ。  目が合ってしまった時の、あの、恐ろしいまでの殺意——。  私がこれまで視てきたそのどれよりも禍々(まがまが)しく、間違いなく”関わってはいけないモノ”なのだと、身体全体が警告している。 「……っ。なん……、なの……っ」  ポツリと小さく溢れ出た声に視線を向けてみると、床に座り込み大きく肩で息をする里香がいる。  何の説明もなく走り出した私に、半ば強引に連れてこられたのだ。「何なの?」とは、当然の疑問だろう。  未だカタカタと震えて呼吸の上がっている私は、とりあえず落ち着かせようと、里香へ向けて震える右手を伸ばそうとした——その時。 「——っ! 何なの、アレ……っ!!?」  突然の里香の大声に、伸ばしかけていた右手をピタリと止めると、私の口から情けない程小さな声が(こぼ)れた。 「……え……っ、?」  視えないはずの里香の口から出た、”アレ”という言葉。  徐々に落ち着きを取り戻しつつあった私の身体は、再びガタガタと大きく震え始めた。 (視え、る……っ? 里香にも……視え……っ、”見えてる”——!!!)  ——そう理解した私は、勢いよく玄関扉を振り返った。  中に逃げる事に必死で、施錠し忘れたままの玄関扉。その扉に向かって手を伸ばした——次の瞬間。ガチャリと動いたノブは、私の目の前でゆっくりと扉を開いていった。  徐々に大きく開かれてゆく扉から侵入してくるのは、吐き気を催すほどの血生臭さい外気。  それはまるで、この空間全てを禍々(まがまが)しいほどの殺意で覆い尽くすかのようにして、恐怖に震える私達を飲み込んだのだった——。     —完—
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