15.

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レストランを出ると 秋の深まった夜の風は肌寒くなっていた。 落ち葉の舞う中、車を走らせながら 優がポツリと言った。 「寒くなってくると、人の暖かみとか、  最近温もりのありがたさを実感するよ」 「そうですね」 「10月、地元の祭りの準備と本番とで  毎週地元帰っててんけどな、  この歳になると、ぼちぼち友達も  結婚してたり子どもいてたりすんねんな」 「へー」 「祭りの日とか、家族も来てたりすんねん。  なんかええなぁとか思うよな」 「そうですねぇ」 遥は車の窓の外に広がる街の灯りを眺めていた。 「来年の祭りは、槙ちゃん、来てくれへん?」 「へー、楽しそう」 優は意を決して言った。 「その…つまりな、槙ちゃん…  家族になって、祭りに来てほしいねん」 「え?」 あまりに唐突な申し出に、 遥は言葉を失った。 混乱する頭を何とか整理しながら、 遥はやっとの思いで口にした。 「えっと…、すみません、  数ヶ月ぶりに、久しぶりにお会いして、  急な展開で、混乱しちゃって…」 「そらそうやな、ごめんな」 「え、だって、ずっと会えなくて、  だから、私、避けられてるのかなって」 優は慌てて否定した。 「いや、いや、いや、  ホンマに忙しかってん、ゴメンな」 「そ…う…だったんですね」 「この数ヶ月考えてた事やしな、  なんか想いが溢れてもうて」 その言葉に、遥の瞳には涙が溢れた。 「祭りだけじゃなくて、  いつも行ってる山も海も、  私を連れてってください!」 「そやな、山も海も、  どこでも運転して行くで」 寒空のきらめく星の下、 ランドクルーザーは駆けていく。
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