20人が本棚に入れています
本棚に追加
「魔術師オーエンをお探しでしたね。お知り合いなんですか?」
旅人はほぅと満足の溜息を吐いてから答えた。
「ええ、まあ。知人の知り合いといったところでしょうか。それほど親しい仲ではありません」
「それなのに、こんな森の奥地まで訪ねていらしたんですか?」
青年は意外そうに目を丸くした。
見れば見るほど、印象的な瞳だ。黄色の虹彩の中にはっきりと黒い亀裂が走っており、暖炉の火を受けて黄金のように輝いている。旅人は彼の瞳に魅せられた。
「どうしてまた、そんな」
「実は、この森の周辺で化け猫が出るようになったそうなんです。付近の村ではもう何人も喰われています」
「化け猫? それは恐ろしい……」
「ご存知ないですか?」
今度は旅人が眉を顰める番だった。青年はけろりとして答える。
「知りませんでした。僕はほとんど森の奥から出ませんからねぇ」
「そうですか。では、お出掛けになる時は十分にご注意くださいね」
「ありがとうございます。そうします」
つまり、と青年が話を引き継いだ。
「その化け猫を退治するために、オーエンを探しているんですか?」
「そういう訳です。しかし……アテが外れてしまいました」
旅人はもう一口ミルクを味わってから、話題を変えた。
「それでは、〈秘宝〉の行方もご存知でない?」
「〈秘宝〉?」
「はい。オーエン様がお護りになっていた〈秘宝〉です。滔々と湧き出る魔力を湛え、不死を司ると言われる伝説の〈秘宝〉――」
「うーん……やっぱり僕は知らないみたいです」
「そうですか……」
旅人は残念そうに肩を落とした。
最初のコメントを投稿しよう!