魔術師オーエンを探して

4/6
前へ
/6ページ
次へ
 旅人は残念そうに肩を落とした。 「急に化け猫が現れたこと、オーエン様が行方知れずになってしまわれたこと。そして、〈秘宝〉……なにか関係があるのでしょうか?」 「やぁ、僕に訊かれましても」  青年は空いたコップを下げに行きかけて、足を止めた。窓には未だ雨が強く打ち付けている。 「雨、止みそうにありませんね」 「――猫と言えば、オーエン様は使い魔として猫を飼っていましたね。その猫がどうなったかはご存知ないですか?」 「いえ、知りませんが」 「オーエン様が連れて行ったんでしょうかね? まさか、化け猫に食べられてしまったなんてことは……灰色で毛の長い、雄の猫だったそうですが」  青年の雲行きが怪しくなってきた。彼からしてみれば、一方的に知りもしない前の住人の話を聞かされるのは不快だろう。彼は素っ気なく肩を竦め、奥の部屋へ行ってしまった。 「オーエン様は常々おっしゃってましたよ。野心的な性格の猫でねぇ。良く言えば、独立心があるというか。いつか寝首を掻かれる日が来るかもしれないなんて……」 「知り合いの知り合いとおっしゃっていましたが、随分と親しい仲だったんですね。その魔術師の方と」 「ああ、まあ。結果的にはそういうことになりますかねぇ」  薪が爆ぜる。  ふいに、隣室から聞こえる青年の声が遠のいたような気がした。 「――その猫が化け猫になったとは考えられませんか?」 「オーエン様の猫が? ははぁ、どうでしょうね? 使い魔と言っても、所詮は魔猫(グレマルキン)。人を喰らうほどの力は持ち合わせておりませんよ」  旅人はカラカラと笑い声を立てた。ブランデーのおかげで体が温まり、舌もよく回るようになってきたようだ。彼は空いたコップを持ち上げ、未だ戻らぬ青年に向かって持論を捲し立てた。 「だいたい、化け猫ってどんなものなんでしょうね? 私は〈薄塵の黄谷〉から旅をしてくる中で、色んなバケモノを見てきました。でも、化け猫ってのはまだ見たことがないんですよ」 「見たいのですか?」 「そうですねぇ……それがそんなに恐ろしいっていうんなら」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加