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すると、突然。
暖炉の火がごうと激しく燃え盛り、かと思えば消えてしまった。光源を失った室内には暗闇が這い忍び、雨の吹き付ける窓だけが辛うじて火花のように煌めいていた。
何事だろう。旅人は息を潜める。
その背後に、バケモノが生臭い息を吹き掛けた。
「見たいですか。見たいのですか。いいでしょう、いいでしょう。見せて差し上げましょう」
ぼっと灯った青い鬼火。
振り返ると、巨大な目玉が二つ、旅人の目の前に浮かんでいた。
それは獅子よりも大きく、馬よりも大きかったが、まごうことなく猫だった。灰色の毛の長い猫が、両目を爛々と輝かせてその場に蹲っていた。
化け猫だ。ニンマリと笑う。
「どうぞ、とくとご覧なさい。これがあなたが見たがっていた化け猫ですよ」
旅人は一歩、二歩と後退った。手が熱を感じて、暖炉の際まで追い詰められていることに気付く。化け猫が糸のように目を細めると、暖炉の火が再びごうと燃え盛った。
旅人は言った。その青い双眸に魅せられながら。
「灰色の、毛の長い……まさかお前は……」
「そうとも、そうとも」
化け猫は満足そうに口を開く。
「残念だったねぇ、オーエンに会えなくて。僕が喰ってやったのさぁ、村人も、魔術師オーエンも!」
「ということは、〈秘宝〉は?」
「この腹の中だよ。所詮はグレマルキン――お前はそう侮ってくれたもんだが、今の僕は〈秘宝〉の魔力を取り込んだ、不死の魔獣さ」
化け猫が一歩踏み出した。鉤爪が伸び、木の床に鋭利な裂傷を作る。次はお前だと言わんばかりに。
「さあさあ、オーエンに会わせてやろう。みんな仲良く腹の中でね」
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