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「いらっしゃい、にゃんたま屋さんだよ」 日付が変わったばかり、深夜の帰り道でそんな声がかけられた。 寝静まった住宅街。誰もいない通りを電柱の灯りが心もとなく照らしている。深い夜の空気から冬がすぐそこまで来ていることを感じる。 泥のように重たい足取りでアパートを目指す私のまえに、煌々と光ほとばしる屋台が現れた。クリスマスみたいな電飾がぴかぴかと輝いている。 軒先に掲げられた大きな赤い提灯には、にゃんたま屋と力強い筆字で書かれていた。 「良いにゃんたまあるよ」 屋台をのぞき込むと白黒のはちわれ猫と目があった。後ろ足で立っている。背丈は私と同じぐらいだが、身体はふくふくとしていて横幅は私の倍はある。こじゃれたデニム地の前掛けをしていた。 はちわれは私を見ると、ぴこっと耳を動かした。 「お客さん、だいぶ疲れているね」 「ちょっと仕事が忙しくて」 「元気もないね」 「ええ、まあ」 ほとんど吐息のような生気のない声に、自分でも苦笑いしてしまう。 生霊みたいに陰鬱にたたずんでいる私にはちわれはにっこりと笑いかけた。 「いろんなにゃんたまがあるから、是非見て行ってよ」 「にゃんたま?」 はちわれは腕を広げて露天台を示した。黒い長袖を着たような柄で手元は白い。白黒のはちわれによく見る、骨太な手首。豪快な体格と反して肉球は淡い桜色で、お菓子のグミにようにぷりぷりしている。 目に焼き付ける思いで凝視する。いまなら突然その手でパンチされても腹も立たないし、むしろ三発ほどパンチして欲しい。疲労困憊で溶けた脳みそが勝手にそんなことを考えてしまう。 台に並んでいるのはすべて同じ形のものだった。 ころん、としたふわふわの丸い毛の塊がふたつくっついている。 白、黒、茶色、さび色など、いろんな色と柄がある。よくよく見ると大きさや形にもそれぞれ違いがある。 「これ、猫のきん……」 「にゃんたまね」
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