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猫を飼い始めてから数年が経った。
なつめは『母』になり、坂城さんは『父』になった。
「子供の写真、見ても良い?」
坂城さんのスーツをハンガーにかけ、胸ポケットからスマホを取り出す。
「良いよ。暗証番号覚えてる?」
「覚えてる。俺の誕生日でしょ?」
「そうだよ。優征君、おいで」
両手を広げている坂城さんの膝上には、なつめが陣取っている。何もかもが変わってしまった様で、本質的には何も変わっていないのだと思う。
俺と坂城さんは相変わらず『友達』という曖昧な関係のまま、月曜から金曜までの、夕方から夜にかけての、ほんのひと時を一緒に過ごす。
「やっぱり、坂城さんに似てるよね。目元とか、そっくり」
坂城さんの隣に座り、顔の横にスマホの画面を並べる。坂城さんと奥様の愛の結晶は、俺がどれほど望んでも、永遠に手に入らない『奇跡』だ。
「よく言われる。パパに似て美人だね、って」
「それ、自分で言っちゃう?」
「だって、本当のことだから」
「いや、そうかもしれないけど……。まぁ、いいや。坂城さんはずっとそのままでいなよ」
「そのまま?」
「うん。そのまま」
スマホの画面を暗転させると、坂城さんが俺の頬に触れ、唇を重ねる。誰よりも傲慢なくせに、キスだけは優しくて嫌になる。
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