こっちはこっちで複雑なんだ(ヴィンセント視点)

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こっちはこっちで複雑なんだ(ヴィンセント視点)

「まったく……なんてしつこいんだ」 思わずため息と共にそんな言葉が口から漏れる。毎日顔を合わす度に「婚約してください」と俺を追いかけ回してくるのは本当にやめてほしいと思う。 ……あんなに可愛い声で「婚約して♥️」なんてねだられたら、つい了承してしまいそうになるじゃないかぁ! もし、本当に婚約したらどうなるのか……そんな妄想が脳内を駆け巡った。 エターナは成長すると共にどんどん綺麗になる。そう、エターナは出会った頃から変わらず可愛い。そしてそこに美しさも加わった。いつも元気で笑顔でちょっと強引で……。そんなエターナと婚約者になったらーーーー。 「殿下、手を繋いでもいいですか?」 「私たち婚約者なんだから、デートしたいです」 「ヴィンセント殿下……私、初めて殿下を見た時からお慕いしてましたーーーー」 ーーーーな、なーんて事になったりならなかったりしないか?! そんな甘い妄想にやや興奮するが、すぐに現実を思い返し再びため息をついた。もし本当に婚約者になったとしても、きっとエターナは聖女が現れた途端に「さぁ、婚約破棄して下さい♥️」と言ってくるに違いないのだ。彼女は1度決めたらかなり頑固である。それは出会ってからのこの5年間で身に染みていた。まったく、どんな拷問なのか。 夢のような妄想よりもそっちの方が現実味を帯びていてもう一度大きなため息が口から漏れた。 「どうしたんですか、ヴィンセント殿下?そんなにため息ばかりついて……」 「どうせまた例の公爵令嬢に言い寄られたんでしょう?殿下はこんなに嫌がっているのにしつこい女ですよねー」 俺の背後から声をかけてきたのは学友でもあり俺の側近候補でもあるふたりの男子学生だった。 「……なんでもない」 周りのエターナに対する評価は厳しい。確かに王子である俺に毎日のように婚約を迫る姿は事情を知らない人間から見ればなんとも滑稽だろう。「権力が欲しくて必死」だとか「あんなに拒否されてるのにみっともない女」などと陰口を叩かれているのは知っていた。もちろんエターナも知っている。あまりに酷い中傷に俺が反論しようとしたらエターナに止められたのだ。「私の目指す未来(完璧な悪役令嬢)の為には必要なことなので邪魔しないでくださいね。私が悪女である方が婚約破棄する時の理由に箔がつきますから♥️」と小首を傾げてお願いされてしまった。 「殿下が優しいからあの女が付け上がるんですよ」 「見た目は悪くないのに残念な女ですね」 エターナを馬鹿にしたように笑うふたりに内心イラッとしたが、それを悟られないように「あんな女、興味ないから」と言葉を濁した。 このふたりは側で捕まえておかなくてはならないから……。 「殿下の婚約者になら、あの令嬢とかどうですかね」 「いやいや、どうせなら素直でもっと従順な方が」 下品に笑いながら軽口を叩くふたりにそっと視線を向けた。爵位的にはエターナよりもずっと下の癖に公爵令嬢を馬鹿にするなんて「お前たちをエターナに対する侮辱罪で捕らえてやろうか」と言いたくなるがグッと我慢した。なにせやっと見つけた重要人物なのだ、いくらムカついても目の届く所に置いておかなくてはならない。 燃えるような赤い髪と夕焼け色の瞳をした勝ち気そうな方が“リビー・ジェット”。そして、青みがかった黒髪と紺色の瞳に銀縁メガネをかけた方が“ジュラルド・エンドライン”だ。 そう、エターナの言っていた“宰相の息子”と“大商人の息子”である。俺はこのふたりを探しだし父上に頼み込んで側近候補にしてもらった。なにせこいつらはループの世界でエターナを断罪した奴等なのだから。 #この__・・__#世界でこのふたりがまたもやエターナを断罪しようとしないように監視しているのだ。エターナの義理の弟はエターナ自身が管理しているようだが(俺と聖女の仲を邪魔しないようにと言う理由が悲しい)、残る大罪人は隣国の王子だ。こいつは今後この国に留学してくる予定なのでまだ様子見するしかない。 本当ならこいつらにエターナの可愛いらしさを語ってやりたい。瞳が可愛いし、声が可愛いし、首を傾げた時のきょとん顔が可愛いし。そしてループ世界で何度も悲惨な目に遭遇しているのに賢者と言う重大な使命を背負い、それでも笑顔で頑張っているのだ。なによりも俺を幸せにするために自分が犠牲になろうとしているんだぞ!なんて健気なんだ! だが、それを語る為にはエターナが“賢者”であることを言わなくてはならなくなる。ループ世界を繰り返し未来を知っているなんてわかったらエターナの身が危険にさらされてしまうだろう。 ……それに、エターナの素晴らしさを知ってこいつらがエターナに惚れでもしたら……。 なんか嫌だ! あの義理の弟は、まぁ……うん、弟だからいいとして!エターナ自身が調教したんだしな。ほら、弟だから!だが、こいつらは別だ。エターナの可愛さは俺だけが知っていればいいと思うんだよな! とにかくこれから現れる聖女候補が誰と恋に落ちようが、もう決してエターナを断罪なんかさせない! こうして俺はエターナの未来を守るべく暗躍することを心に決めていたのだった。
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