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食中毒にはご用心!
「……ここはーーーー」
水溜りから伸びてきた手に足を掴まれて引きずり込まれ、私は気を失ってしまったようだった。まるで異次元の歪んだ空間を無理矢理連れ回されたような感じ……うーん、表現がしにくいが船酔いといえばわかりやすいだろうか?とにかくそんな感じで私は最悪の気分だった。
倒れていた場所を見回すと、ひんやりとした空気が流れてくる。全身かびしょ濡れのせいか少し寒く感じるも、そこがどこかの洞窟であると認識していると少し離れた場所から悲痛な声が聞こえてきたのだが……。
『ぎゃぁぁぁあ!!誰か助けてぇぇぇ!』
『ぴぎぃっ!!』
『がるるるるるっ!!』
変な魚に噛み付くアンバーたちの姿を見て驚くことになった。
アンバーとフラムが牙を剥いて噛み付いていた#それ__・・__#は、マリンブルーの長い髪を振り乱し、碧色の瞳を顰めていた。上半身は裸で、まるで彫刻のような肉体美を披露している。そこまでなら単なる露出狂の美青年で済ますところなのだが、ただの変態では済まなかったのだ。
鍛え上げられた腹筋(とは言え、マダムと比べたらどちらが圧勝かなんて言うまでもないのだが)と滑らかな肌。理想だとみんなが憧れるような形をしたヘソの更にその下。そう、その下半身はーーーー。
見事な魚体だったのだ。
脂の乗ったそれはもうぴっちぴち……ではなく、七色に輝く鱗に包まれた立派な魚体。揺れ動く尾ヒレ。そこに噛み付いているアンバーとフラム。
そう、今まさにドラゴン(赤ちゃん)と魔獣(赤ちゃん)に襲われているのは人魚(半裸の成人)だったのである。
「うわぁ、ほんとに人魚だ……って!アンバー、フラム!食べちゃダメ!」
私はびしょ濡れなのも忘れてアンバーとフラムを人魚の尾ヒレから引き離した。くっきりと二匹分の歯型がついてはいるが食い千切られた様子はない。人魚の鱗はドラゴンにも負けないくらい頑丈なはずだけどそのドラゴンに噛みつかれた場合は牙の方が若干強そうである。だが人魚には再生能力もあるため、歯型はすぐに消えて七色の鱗がキラリと輝いていた。
『た、助かりました。さすが賢者様はこのワタクシが希少な人魚であるとわか「人魚の肉には毒があるんだから、生で食べたらお腹をこわすわよ?!」賢者様ぁぁぁぁ!?』
あれ?アンバーとフラムを叱っていたらなぜか人魚が泣いている……なんで?うーん。気にはなるが、しかし今はそれどころではない。なにせ人魚の肉にはモンスターにも有効な毒が含まれているのだ。私を守ろうとしてくれたのは嬉しいけれど、まだ赤ちゃんである二匹がそのせいで毒に侵されたら嫌なのでしっかりと言い聞かせておかねばならないのである。
「いい?人魚の血や肉を食べたりしたら、3日はお腹がピーピーになっちゃうんだからね!よくわからない相手を捕まえる時はまずフラムの炎でよく焼いて加熱殺菌を『そんな、軽い食中毒みたいな扱いしないでぇぇぇぇぇ!』……それと、ちゃんと手洗いうがいもするのよ!」
『ぴぎぃっ!』
『あいっ!』
とりあえず人魚は無視して二匹にしっかりと説明をしておいた。まぁ、もしも人間や普通の動物たちが口にしようものなら良くて即死、最悪の場合は細胞が作り変えられて魔物に変貌したりしてしまう猛毒なのだがドラゴンや魔獣にはそこまで効果はないはずだ(せいぜい軽い食中毒)。だがまだ二匹は赤ちゃんなので軽い食中毒でも重症化する可能性が存分にある。だからこそ、念には念を入れないとね!
ところで、この人魚はなんでここにいるのかしら?
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