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ナルシストは重大事項を明かす
「如何ですか、賢者様!これなら誰がどう見てもひたすら美しいだけの人間でしょう?!」
洞窟の外。人気のない鬱蒼とした森の中で二本足ですらりと立つ人魚……いや、人間の姿に擬態した彼はえっへんと胸を張った。
露出狂人魚ことベクターはさすがは人魚の変異体だと言うべきか、かなり希少な魔法の使い手であったのだ。
まさか変身魔法が使えるとは……。その魔法は、私の使う認識阻害魔法と違い完全に違う姿にへと変わることが出来る。認識阻害とは“違う気がする”と思わせる魔法なので(賢者である私より)魔力の高い実力者ならば見極めることが可能だ。だが、変身魔法なら姿形、なんなら気配まで変えることが出来るのでちょっとやそっとじゃバレたりしない。ただベクターは自分自身にしかその魔法をかけれないらしいが、それでも私の風魔法より高度な魔法である。うぅ、やはり私の魔法って地味で役立たず。
つまり、今のベクターは完璧な人間へと擬態しているということになるのだが……。
「二本足のワタクシも素晴らしく美しいです!しかし、どれだけ人間に擬態してもこの美しさは隠しきれませんでした……!」
残念なことにナルシストはそのままだった。
顔の造形はそのままだが、髪や瞳の色を一般的だと言われる茶色に変えるだけでだいぶ印象は変わる。確かにちょっと美形な青年にしか見えないだろう。それっぽい格好をさせれば、冒険者が雇った護衛に見えなくもない。
「うーん、マダムたちのいる町に戻るにちょっと遠いし、やっぱりこの街のギルドに行って情報を集めるしかないわね」
ベクターはあの水溜りから私を自分の寝床へと連れ込んだが、逆は出来ないらしい。洞窟からは抜け出せたが1番近くの街は全然知らない土地だった。空間を捻じ曲げて私を引きずり込むなんてスゴイことが出来る魔力を持っているくせに同族にモテナイなんて……なんとも残念な人魚である。
「……ところで、賢者様はどんな情報をお知りになりたいのですか?」
「それは……」
仕方なくベクターに私がループ世界で体験したことを伝えた。未来で死なないためにその要因を排除したいこと。だから色々な耐性をつけるための情報を集めていること。そして、もしも私の死に巻込まれそうになったら逃げて欲しいこと。ベクターは大人だしアンバーたちよりは自分の身は自分で守れるだろう。
するとベクターはおもむろに私の顎を指先でつまみ、顔を近づけ瞳を覗き込んでくると不思議そうに首をかしげた。
「……耐性、ですか?それならすでに『ぴぎぃ!』へぶっ?!痛いですぅぅぅぅ!!顔はやめてください、アンバー様!フラム様までぇぇぇえーっ!?」
ベクターが何かを言おうとした途端、アンバーがベクターの顔を尻尾で往復ビンタしだした。ついでにフラムはお尻に向かって炎を吐いて焦がしている。なんで突然ケンカしてるの?
『ぴぎぃ!ぴぎぃぴぎぃ』
「うへっ?!いえいえ、誤解ですよアンバー様!確かに賢者様は可愛らしい方ですがワタクシの理想はもっとスタイルの『ぴぎぃ』ごめんなさいぃぃぃぃ!とにかくそんなんじゃなくてですねぇ!」
『ましゅたーをぶじょくしゅるのはゆるちまてん!』
「あぁあ、フラム様まで!ワタクシそんなこといたしません!賢者様はご年齢の割には良い方だと……ただワタクシは誇り高きマーマンとして成熟していないメスはあまり『ぴぎぃ!』『ふぁいあーっ!』ぐへっ!あちっ!ワタクシの美しい顔がぁぁぁぁ!きれいな尻がぁぁぁぁあ!」
とりあえずベクターはアンバーの言っていることがわかるみたいだが、赤ちゃん二匹にフルボッコにされている姿にちゃんと護衛に見えるのか心配になってきた。今は他に人がいないからいいけれど、街に行ったらちゃんと振る舞うように言っておかなければすぐに不審者だと疑われそうである。
「……それで、結局なにがどうしたの?」
アンバーを抱き上げフラムをよしよしと宥めると、再生能力で顔の腫れとお尻の焦げを治したベクターが「それが」と服の汚れをはたきながら口を開いた。
「ワタクシが見立てたところ、賢者様はすでに複数の魔力耐性をお持ちになっておられるようですが?」
「な」
なんですってぇーーーー?!
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