人生とは何が起こるかわからない(錬金術師視点)

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人生とは何が起こるかわからない(錬金術師視点)

 油断していた。    さっきまでそれなりにヤバい状況に身を置いていたせいか、俺を散々脅した人魚がお仕置きされて逃げ出したせいか、久々の温かいうまい食事にありつけたせいか……いや、全てが要因だろう。すっかり気を抜いていたのだ。  俺は師匠と別れてから、ずっとこのマントを被り顔を隠してきた。なぜかというと、師匠に「ミステリアスな方がかっこいいだろう?」と勧められたせいもあるが、実は#少し変わった風貌__・・・・・・・・__#をしているせいでもあった。人間というのは、人の見た目であれこれ詮索してくる生き物だからだ。煩わしいのは御免被りたい。 「さっきはアフロ状態がすごくてわからなかったけど、その目……っ」 「へ?!」  そう、油断していた。まさか頭から被っているマントを剥ぎ取られるとは思いもしなかったのだ。というか実はこの黒マントは師匠が作ってくれた特別製で、師匠曰く「素顔が見えそうでなかなか見えない特別なマントさ!例え髪型が突然アフロになってもなぜか素顔は見えない仕様にしてくれるんだ!「髪型が突然アフロになるなんてなかなか無いんじゃ……」うるさいよ、弟子。まぁ、それはそれとして、もしもこのマントを無理矢理剥ぎ取れる奴がいたとしたら……その時はその人には是非、僕が#挨拶__・・__#しなきゃいけないかもね」となにやら企んでいる笑顔で言っていたくらいの代物なのだ。だから、まさか素顔を晒すことになるなんて思いもしなかった。 「み、見るな……!」  見られた。俺の秘密を知られてしまった。  やっちまった。師匠がくれたマントだからって安心しきっていたのは事実だ。まさか師匠の作った特別製マントの仕様が覆されるなんて天変地異もいいところだ。それくらいあのヒトは規格外なんだから。  つまり、この女は師匠と同等かそれを超える力の持ち主ということになるじゃないか……!  や、ヤバい!一緒に仲良く干物を食べてる場合じゃないぞ?!この秘密を知って、もしもこの女が俺を排除しようとしたらーーーー 「わぁ!左目だけ紅いのね。それに何か模様みたいのが見えるし……すっごくキレイね!」 「…………へ?」  そう、俺の目……左の瞳は紅色をしている。ちなみに白眼部分も真っ赤なのだ。まさに血の色に染まっている。そしてその眼球にはさらに濃い紅色で錬成陣が刻まれていた。師匠仕様のマントですっぽり隠さなければかなり悪目立ちしてしまう厄介な目だった。  さらに言えば右目は普通に黒目だ。まぁ、この世界では黒髪黒目もそれなりに珍しいのたが存在しないこともない。ただ、紅色の目をしている人間を俺は他に知らない。それくらいには珍しい瞳だった。もちろん、産まれた時は左目も右目と同じく黒目だったのだが、あの日ーーーー錬金術に目覚めた時に左目だけがこの色に変貌したのだ。  え?俺を発見した時に師匠は驚かなかったのかって?あのヒトだぞ?驚くどころか「へー」で終わったんだからな?!というか、俺も最初は自分の目が変貌してるなんて気づかなかったから、しばらくしてから師匠の仲間から「そう言えば、なんで左目だけ色が違うんですか?」と聞かれて初めて知ったほどだ(あの白髪の人も反応があれだったが)。そしたら、なんか異世界に詳しい小さい鳥?小人?みたいなのから『たぶん、錬金術師の才能に目覚めた反動だろうと思いますが(チラッと師匠を横目で見つつ)……異世界ですからね!ファイト!』と訳の分からない励ましをされたし。  ちなみに「どうせなら厨二病っぽく黒マントですっぽり隠そうよ!ミステリアスな方がかっこいいだろう?大丈夫、その目が気になるなら……絶対に誰にも見られないようにマントは僕仕様でちゃんと作っておくから♪ーーーーこれでも師匠だから、弟子の要望は叶えないとね?これはハプニングの予感がするよね~」と楽しそうにしていた。その時はよくわからなかったが、もしかしたら師匠はいずれこうなることをわかっていた気がしないでもない。やはりあのヒトは規格外だ。  まぁ、本当に“ヒト”なのかどうかも怪しいが。  ーーーーって、今、なんて言った?俺はこの目を見られたら絶対に気味悪がられると思ってこれまで必死に隠してたのに……!だって、片眼だけ紅いんだぞ?充血してるとかなんて言い訳も利かないくらい真っ赤なんだ!さらに錬成陣まで刻まれているのだ。ハッキリ言って通常じゃない……これは異常だ。本来、錬金術とは等価交換であるはずだが俺はこの瞳のおかげでちょっとした術ならなんの交換も無しに使えるのである。これに関しては師匠からも「使い過ぎ禁止ね」とは言われているが。つまり俺は……理から外れた存在だ。まさに異質……。あの頃は師匠があんなんだったからそれほど気にしなくても良かったけれど、一人になって考えれば考えるほどこの世界からの疎外感を感じたりもしてきた。だからこそ、師匠から託された使命を果たすことに集中して目を逸らしてきたのにーーーー。  まさか、転生者でもないこの世界の人間から、この目を褒められる日が来るなんて思いもしなかった。 「どうしたの?」 「えっ……!」  黙ったままでいる俺を心配したのか、その女……エターナは覗き込むように顔を近づけ、俺の額に手を当てた。 「顔が熱っぽいわ……もしかしてベクターのせいで風邪をひいたのかしら?ごめんなさいね、あの人魚も悪気は無いのよ……たぶん。見た目は変態っぽいけど一応自分の婚活に悩んで修行しようと思うくらいには真面目……のはずなんだけど。どうにも人間との距離感がちょっと変な人魚なのよね……『ぴ!ぴぎぃっ!?』あっ!ダメよ、アンバー!錬金術師とはいえ普通の人間なんだからベクターにいたずらされて体に負担があったのかもしれないでしょ?めっ!」  俺がエターナに心配されているのが気に入らないのか、変わったトカゲ……いや、実体はあの美少年か。この左目で集中して見れば黄水晶色をしたちびドラゴンだとわかるが、集中力が途切れるとやはりちょっと変わったトカゲに見える。後からこれがエターナの認識阻害魔法のせいだとわかった時は「やべっ!レベルが違う……!」と驚愕したのはまた別の話。  とにかく、今は俺に噛みつこうとしたトカゲがエターナに叱られていて、そのトカゲがものすごい殺気を含んだ瞳で俺を睨んで来ていたけれど…………なぜか、洞窟の時のように恐怖は感じていなかった。  え、よく見るとカワイイかも?前世の時に巷で流行ってた物語の悪役令嬢っぽいけど、スタイルもいいし……なにより!師匠と同等の能力を持っていて(これ重要)俺のこの瞳を差別しない女なんてーーーー理想過ぎないか?!  あ、ヤバい。エターナがキラキラして見えて、ドキドキする!……まさか、これって恋ーーーー?!  前世がアレで、今世がコレで、さらに#あの__・・__#ユーキと関わったせいか、彼の性癖はだいぶ偏っていた。ちなみに前世含めてマトモに恋愛などしたことがない彼にとって……これは初恋?かもしれなかった。
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