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我慢の限界ラインはとっくに突破している(アレフ視点)
「……っ!もう、我慢の限界です!どうか、僕に義姉上を探しに行く許可を下さい!!それが駄目なら今すぐあの王子を去勢しに王城へ乗り込みます!」
その日、溜まりまくったストレスが爆発した僕は特別に造ってもらった巨大なハサミを片手に掲げながら義両親に土下座の勢いで頼み込んだのだった。決して脅しているわけてはないが、僕の本気具合をわかってもらいたかったのである。え、そんなハサミを何に使うのかって……もちろん冗談ではなく本気の案件にだ。僕の王子への恨み度合いは生半可なものではない。
「アレフ、そこまで思い詰めていたなんて……」
「……義父上たちもご存知の通り、学園は今や聖女の無法地帯です。貴族の令息たちはことごとく聖女の虜となり、それに嫉妬した令嬢たちが聖女を糾弾したら今度は婚約破棄や断罪の嵐……。もはや、義姉上が……いえ、賢者が予言した以上の厄災が学園に蔓延っているとしか思えないのです!賢者の予言を上回る事柄が起こっているとなれば、それを解決出来るのはやはり賢者の存在のはずです!というか、あのヘタレ王子は目の前で義姉上にこっぴどく振られないと現実が見れないと思うんですよ!あの野郎、学園が荒れに荒れてるのにまだ逃げ回ってやがるんですよ?!しかも義姉上の悪い噂が飛び交ってるのに否定も訂正もしないし、僕が学園に出向いた時に聖女やその信者に囲まれて困っている時に見て見ぬふりしやがりましたし!それなのに、やっぱり義姉上とは婚約しないけど婚約者候補からは外さないってーーーーあ、やっぱり先に切り落としましょう。そして決して義姉上と婚約出来ない体にしてやれば義姉上も諦めて帰ってきてくれるかも……」
「アレフ……気持ちはとてもわかるが、未だエターナの行方はわからないままだし探しに行くにしてもどこへいけばいいか……。ーーーーそうだな、とりあえず殿下をやっちゃう?あの馬鹿殿下、毎回ふざけた態度ばかりでいいかげん頭にきてたんだ……」
「そうですわね。未だエターナが家出から帰ってこないのも全ては優柔不断な殿下のせい……。それならいっそ、殿下を再起不能にしてしまう方が最善かしら。とっととエターナを婚約者候補から外して下さればいいものの、それも無視して聖女とイチャイチャしているらしいですし……」
僕の闇に同調したのか、義両親も同意の意思をちらつかせる。それくらいにあの王子の態度は公爵家にダメージを与えているのだ。陛下に何度も訴えるがあまり効果はない上に、世間からは公爵家がエターナを早く正式な婚約者にするようにと王家に詰め寄っていると思われているようであった。それこそ、家に引きこもった公爵令嬢が影から王子を追いかけ回しているかのように。
正確には殿下は追いかけ回してくる聖女からひたすら逃げているのだが、殿下がいないところで聖女があることないこと言い回っているせいで殿下は知らず知らずに聖女とイチャついている事になっている。それなのに義姉上が未だ婚約者候補のままだから周りは「王子と聖女の婚約を邪魔する公爵令嬢」と、はからずも義姉上は自身の計画通りに“悪役令嬢”として名を轟かしているのだ。本人が聞いたら喜びそうではあるが、それを目の当たりにしている僕としては不愉快極まりないのだ。
「毎回毎回……僕に苦言を呈してくる令息たちは同じ事ばかり言ってきます。“王子には聖女がいるのに、未だ身を引かぬ引きこもりの恥知らずな公爵令嬢”だと。“自分に勝ち目がないから不登校になって王子の気を引こうとしている”とも。それもこれも全てあの聖女が触れ回った偽りだというのに、あの馬鹿殿下がちゃんとしないから偽りばかりが広がってしまっているのです。僕はもう耐えられません!例え義姉上が許しても、僕は許せません!!
僕の最愛の人が、馬鹿にされるなんてもう嫌なんです!」
勢いもあり、口をついて出てしまった本音。でもそれを隠す気はもう無かった。
「アレフ……まさかあなた」
何かを察した義母上がほんのり頬を染める。そして「本気なの?」と真っ直ぐに僕を見た。
「もちろん本気です。……僕は、殿下から義姉上を取り戻したい。そして、僕の妻に望みます!僕は義姉上を……エターナを愛しているのです!」
義両親に本音を話したのは初めてだった。これまでは姉を慕う弟を装い、決して本心を見せなかったから。本当なら義姉上が殿下に婚約破棄されてから伝えようと思っていたが、婚約も出来ずに宙ぶらりんのままエターナの悪評だけが広がる現状に痺れを切らしてしまったのだ。
義姉上、ごめんなさい。僕はもう、あなたの計画に協力は出来ません!
「僕は、エターナを連れ戻しに行きます!」
もう、王子との婚約からの婚約破棄なんて待っていられない。今すぐにでもエターナを連れ戻し、王子と婚約する前に僕の婚約者になってもらうんだ!
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