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事態は急変するものなのだ
「うわっ!噂の悪女がやってきたぞ!」
「いままでさんざん殿下と聖女を振り回しておいて、まさか男を三人も侍らしてのご登場とはよいご身分だな。何様のつもりだ?」
「聖女はあんなに純真無垢なのに、あなたは公爵令嬢として恥ずかしくないのか?なんて恥知らずなんだ……!」
「やっと引き籠もりから出てきたと思ったら男連れとは……いくら公爵令嬢とはいえゲスにも程がある。少しは聖女の純真さを見習ってはどうですか?あぁ、元より卑怯な手段で殿下の気を引こうとしているあなたには無理な話でしたね。でも聖女に勝とうだなんて思わない方がいいですよ。戦う前から負けは見えていますから」
「あぁ、お前が噂の悪女か。聖女の評判を聞いて偵察しに来てみれば、あんなに美しく清らかな女性を悲しませるなど愚の骨頂だ。そんな女が公爵令嬢だなんて、この国も地に落ちたな」
久々の学園だった。本当に久々なのだ。まさか学園の門から一歩踏み入れただけでこんなことになるなんて思いもし無かった。
こんな久々な状況で、まさかこんな罵詈雑言の嵐だなんて……。しかも、その罵詈雑言軍団の中に……宰相の息子に大商人の息子、それに隣国の王子(いつの間に留学してきたんだろう?)。まさか義弟を抜いたあのトップ3がすでに聖女にメロメロになっていたなんて!さすがは聖女、仕事が早いわ!
しかも、私ったらめちゃくちゃ悪役令嬢っぽくない?!やだ、いつの間にか目標達成の予感がするわ!?う、嬉しい……!
あ、でも……もしかして殿下もすでに聖女にメロメロ?私との婚約が成立した後なら全然オッケーなんだけど、殿下がサインしたと同時に呪い的な魔法が発動するように仕組んでいる婚約届(定期的に王家に送っている)はちゃんと活用されているのかしら?もし、まだ婚約が受理されていないなら私の計画が……。うーん。
実は真っ先に実家に立ち寄ったのたが、両親も義弟も外出中で不在だった。使用人たちは大慌てだったがいないものは仕方がないのでアンバーとフラムのお世話を頼んで学園に来たのだ。しかしよく考えればお父様の帰宅を待って婚約がどうなったのか確認してからくればよかったかもしれない。それにしてもお父様もお母様もどこへいっているのかしら?それにしてもアレフもいないなんて、まさかとは思うけれどアレフも聖女の虜になっているとか?もしそうだとしたら調教失敗?くっ!こんなに戸惑うなら、やっぱりこまめに状況確認しておけばよかったかしれないわ……!
「「「…………」」」
通りすがりの生徒たちに嫌味を言われながら歓喜して悶えつつ、さらに今後のことに悩む私に背後から冷たい視線がささってくる。しかし、そんなことを気にしてはいる暇はないのだ。うーん、どうするべきか……。このままでは殿下の明るい未来が翳ってしまうわ!
「……ワタクシにはあの人間たちが賢者様を悪く罵っているように聞こえましたが、もしや人間の間ではあれが褒め言葉なのですか?」
「そんなわけないだろ……。てか、なんで喜んでんの?」
「ふむふむ……。エターナはいい感じで変態みたいだね!ボク的には面白いけど……あいつらなんかムカつくから一掃しちゃわない?っていうか、していい?」
「師匠が言うと冗談に聞こえないからやめて下さい。さすがにこんな目立つところで問題を起こしたら面倒臭いですよ」
「そうですよ!賢者様が学園とやらには重要人物たちがいるとおっしゃっていました!お掃除するならちゃんと確認をしないと、ワタクシが叱られてしまいます!」
「えー、多少消えても誤魔化せば大丈夫じゃないかい?モブ野郎共なんか、いなくなっても誰も気にしないよ」
「えっ、そうなんですか?それなら賢者様を睨みつけたゴミ虫どもを全て消し去っても……」
「ダ、ダメダメダメ!!危険思想禁止ぃ!!これだから規格外どもはぁ……!」
あー、もう!背後がなんかうるさい!ちょっと静かにしてもらわないと……。
雑音のせいで考えが纏らなくなり、眉を釣り上げながら後ろを振り向いた。しかし、次の瞬間……私は懐かしい名前を口にする事になったのだ。
「ヴィンセント殿下……」
振り向いた先。騒がしい3人(その内ひとりは人外の人魚)のさらに後ろに、その人はいた。
私が幸せにしたいと躍起になっているその人が、なんとも複雑な顔をしてそこに立っていたのだ。
「エ、エターナ……!帰って、きたのか……」
その右腕に、ひとりの女性をべったりと侍らせた姿で。
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