初めて母と呼ばれた日

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初めて母と呼ばれた日

『20■■.2/■■  From.アレクセイ  To.ソフィア(継母)  戦争に行って、人が死んだ。  死んだ兵隊の胸からは家族の写真が出てきて、女性と思われる腕の近くにはもらったばかりの花束が落ちている。  男は父になったばかりで、女は結婚式を翌日に控えていた。  ミサイルの落ちた地では、そうした悲劇が剥き出しのまま歩いている。  でも、それだけのことなのです。  古今東西の爆弾が落ちた街で、その悲劇はずっと生まれ続けてきたのだから。  今回は僕の街がそうなっただけです。  それでも世界は変わらない。明日もヨーロッパのどこかでは白いハトが飛んで、アジアのどこかでは青い海が星を散らしたようにさざめくのだと思います。  絵に描いたような普通の日常です。  けれど今から一週間前。  僕らの街の美しき「普通」は、滝の落ちるような勢いで崩れ去ってしまいました。  同じ民族で、同じ言葉を話す隣国から攻撃を受けたのです。  そこまでのことは、きっとあなたもよく知っていることだと思います。  僕がこれから書くのは、あなたがこの街を去った後の出来事です。  メールにしては少し長くなってしまったこと。そしてあなたと別れた後の僕がどうしているのかを、先に謝っておきます。  ごめんなさい、お母さん。  僕は、戦争に行きました。
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