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「ヤス、こっちで一緒に食べよう」 ラーメンを暑そうにすすりながらまっちゃんは僕を同じテーブル席に誘った。 大学生活ニ年目に入ってプレゼミや授業、部活で色んな人と知り合いになったけど、授業の兼ね合いでお昼に彼と一緒に過ごすことが多かった。 彼は小太りで温和な雰囲気を持っているが女の娘にモテるかというと想像しづらい。でもモテるモテないより親しみが上を行く場合があるのだろう。 「まっちゃん、おはよう!亅 「おはよう、ナミさん」 颯爽と現れたきれいな娘がまっちゃんの隣に座り親しげに話し掛けているではないか。 その女の娘に俺はひと目見て『うわ、なんてかわいいんだろう!』カミナリ級の衝撃を受けた。 まっちゃんがその娘と同じアパートというだけでなく、カードゲームとかでしょっちゅう部屋を出入りしているらしい仲だと聞いて妬ましく思った。 さっそく僕はあまり経験のない大富豪に知識を巡らせ 「大富豪ですか?実に面白そうですね。僕は『階段』が得意かな」 と後で考えると赤面ものの棒読みセリフで会話に入ろうとした。 ナミさんは首を傾げながらまっちゃんに 「彼は誰?」と聞く。 「神保靖彦君。ヤス、うちらのルールでは階段はないよ」 「階段がない!それは実に面白い。得意を失っても勝って見せましょう」 まっちゃんのやつ余計なこと言いやがってと思いつつもなんとか次の言葉を返す。 ナミさんは苦笑気味で 「ねえ、まっちゃん、神保君って変わってて面白いね。たまには階段を入れていいよね。ヤスくん、じゃあ明日遊びに来てね〜。楽しくゲームしよ♡」 「ぜ、是非是非!!」 ドギマギするような笑顔とラブコールを受けて断れる人はいるだろうか? 完全に心はナミさんに鷲掴みされてしまった。 でも、彼女の部屋に行くときはクールに決めよう。 そしてできればナミさんのようなきれいな人を彼女にして薔薇のような大学生活を送るのだ。 *** アパートから十五分程、指定されたバス停で降りてナミさんの迎えを待った。 「少し早かったかな?」 テンションが上がり過ぎて三十分も早いバスに乗ってしまった。 どこかコンビニでもないかな? そういえばバスで来る途中、セブンの看板を見たのを思い出して歩いて戻ってみる。 そしてしばらく雑誌を読み時間を潰したが落ち着かず、すぐ外に出て止めていたタバコと缶コーヒーを買って空を見つめた。 「ん、まさかあれ!?」 すると金髪のスラッとした男がバス停で誰かを待っている様子。 とはいえ遠目からも分かる関わり合いたくない風貌なのでなんとなくそっと近づいてみた。 「おーい、ヤスさーん!こっち」 どうして分かったのだろう?知らぬは自分だけで金髪の男は確信したかのように大きく手を振っている。 笑顔で手を振る彼は「ナミから聞いたよ。俺、純。よろしく」 とさばさばと挨拶して来た。 「よ、よろしく。でもどうして分かったの?亅気になって聞いてみると 「ああ、ナミが言うには『多分、ヤスは気合い入っててシャンとした格好で来ると思うよ。あと早く着きすぎて近くのコンビニで待機してるのでは』だって。彼女、推理小説マニアだから」と意地悪な笑顔をみせた。 それにしても純という男は『ナミ』と呼び捨てにするだけの仲なのだろうか?まっちゃんといい、この純といいナミさんにずいぶん気安い。 大富豪をやるだけなのに何人も集まるのはナミさんの人望なのかな? アパートの階段を登り、ナミさんの部屋へと案内してもらう。 「あっ、ヤスくん。遊びに来てくれてありがとう!」 「よう、ヤス!」ちゃっかりナミさんの隣りに座り微笑む、まっちゃん。 満面の笑みを浮かべ迎えてくれるナミさんを見て純の風貌を見て逃げ出さなくて良かったと思い直す。 「コンビニでワサビーフとビール買ってきたよ」 ナミさんはワサビーフが好きなようで早速開けて美味しそうに食べて「ナミ。まだ早いよ」と純にたしなまれている。
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