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隣のテーブルに座っていたのは、老夫婦だった。そして、驚くことに、俺が頼んだのと同じ黒い料理を食べているのだ。
「この料理はめったに出ないから今日は本当にラッキーだよ」
おじいさんはパクパクと料理を食べている。
「そうですね。これほど美味しい料理はこの世にありませんよ」
おばあさんもムシャムシャ食べながら言う。
え、まじで、そうなの。俺は見た目だけでこの料理をまずいと決めつけたが、もしかしたら美味しいのだろうか。
「それではこちらの料理はさげさせていただきます。お代もいただきません。不快な気持ちにさせてしまい、誠に申し訳ありませんでした」
シェフはそう言って、料理をさげようとする。
「ちょ、ちょっと待って。少しだけなら食べても良いかな」
「はい?」
シェフが首を傾げる。
「料理は見た目で判断しちゃいけないもんな」
「はあ」
俺は目の前の真っ黒な料理をスプーンですくい、口の中に入れる。
まず口の中に広がったのは、イカ墨の匂いだった。おそらく黒色の正体はこのイカ墨だろう。そして、続いてやってきたのは、芋の食感だ。程よくほぐしたジャガイモ、そして後で遅れてやってくるのが、なんと金平糖だった。シャリシャリとした食感、そして口全体を包む甘味、この金平糖を入れることによりこの料理は、台無しだった。なぜ金平糖を入れた。バカなのか。ただの気まぐれなのか。俺の怒りが頂点に達した。
「やっぱりまずいじゃねえか!!!」
俺はテーブルを勢いよくひっくり返した。気まぐれで作られた黒い料理が、シェフの顔に見事に直撃した。
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