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「シェフを呼べ!」
俺の声が店内に響く。周りの客が白い目で見てくるが、気にしていられなかった。
「どうかしましたか」
現れたのは、贅肉でたぷんたぷんの中年のおっさんだった。歩くだけで地震が起きそうだった。部屋も出ずにレンタルビデオだけで暮らしていそうな怠慢な風格と、脂ぎったその顔が、俺の怒りを増幅させる。
「どうしたもこうしたもねえよ。なんだこの料理は」
俺はテーブルの上の料理を指さす。そこには、真っ黒で、ドロドロで、まるで海辺に打ち上げられたコールタールを彷彿とさせる、モザイクかけなきゃいけないレベルの料理が皿に乗っていた。
「俺はこんなん頼んでねえよ」
「いえ、注文通りの、シェフの気まぐれディナーです」
「お前はバカか。気まぐれでこんな産業廃棄物みたいなの客に食わせんのか」
「本日の料理のテーマは、『平和に満ちた日本で太陽の元、日傘をさしながら金平糖をつまむ』です」
「何だそのふざけたテーマは。イベントのお題を使い切ろうっていう魂胆が見え見えなんだよ」
「イベント?」
「うるせえ! こっちの事情だよ!」
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