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自分のことを棚に上げて、何も悪いことをしていない私を責めようとするの?
「……貴弘の部屋に行こうとしてメールしたけど全然返事がこなくて……だから家に行けば会えるかなって思ったら……」
那津は鞄の中からスマホを取り出す。
「聞きたい? 貴弘と……佐藤さんとの浮気の証拠」
「なっ……!」
「貴弘の部屋が狭くて助かった。玄関ドアの新聞受けのところからでも十分録音出来たもの….あぁ違うか、声が大き過ぎて丸聞こえだったのかな……」
貴弘の顔色がみるみるうちに青くなっていく。もし那津がかまをかけていたとしても、それが事実であることを物語っていた。
恋人が自分以外の人とセックスしてる現場に居合わせてしまったことが、どれほど苦しくて悲しくて屈辱的かなんて、この人にはきっとわからないんだろうな……。
「悲しかったよ……私はずっと貴弘を信じていたのに……」
「だってこれは……」
「もういい。私はもう貴弘を信じることが出来ないから……。浮気を許せるほど出来た人間じゃないのよ……」
その時だった。
「どうかされましたか?」
突然声がして、二人は勢いよく振り返る。そこには周吾がにこやかな笑顔で立っていた。
「瀧本さん……」
正直なところ、那津の心は複雑だった。先ほどまでは彼が来るのを楽しみにしていたのに、今はこんなところを見られたくなかったと思っていた。
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