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「あぁ、でしたか。何か問題でもありましたか?」  周吾の態度から何かを感じ取ったのか、貴弘が険しい顔で彼を睨みつける。 「……誰だよ」 「ここの消防署に勤めているものです。先日梶原さんが道に迷っていたところを案内したもので……でしたらしましょうか?」  真っ直ぐ見つめる周吾の視線を感じた那津は、思わず彼を見返す。  もしかして……頼れって言ってるの? 私なんかが頼っていいの?  周吾の素性がわかり、貴弘は安心したように笑顔になる。 「消防士の方でしたか。気にしないでください。彼女とちょっとケンカになっただけなので……お互い本気じゃないので大丈夫……」  取り繕うように話し始めた貴弘は、那津の肩をグッと力を入れて両手で掴む。あまりの痛みに顔を歪めたのを見て、周吾が那津の体を貴弘から勢い良く引き剥がした。 「なっ……!」  貴弘は反動でバランスを崩して倒れたが、周吾はそんな彼に対し、上から見下すような笑顔を向けた。 「あぁ、失礼しました。梶原さんが痛がっているように見えたので」  周吾は那津の前に立つと、彼女を守るように盾となる。その力強い背中に、那津は思わずしがみついた。 「お、お前には関係ないだろ⁈ とっとと何処かに行けよ!」  貴弘が周吾に殴りかかろうとした瞬間、那津は顔を上げて大きな声を上げた。 「助けてください! もう別れているのに、この人しつこいんです!」 「な、何言ってんだよ!」 「もう私は話すことはないから放っておいてよ!」 「なっ……お、お前だって浮気してるんだろ? 佐藤さんから聞いたよ……だから俺だって仕返ししたんじゃないか! これでおあいこだろ?」  那津は眉根を寄せ、開いた口が塞がらなくなる。 「……貴弘、何言ってるの? 私は浮気なんかしてないよ……佐藤さんが何を言ったか知らないけど、どうして直接私に聞かないの?」 「そ、それは……」  口籠る貴弘の様子に、那津はため息をついた。私の浮気を疑って疑心暗鬼になったのだろうか。でも信用されてなかった上、違う女と寝るなんて……それも私の不貞疑惑を囁いた女と。この人はそれが私への最大の裏切り行為だということに気付いていないのだろうか。 「もう無理……貴弘を好きだった気持ち、忘れちゃった……」  貴弘に背を向けた那津の頭に、周吾はそっと手を載せた。 「彼女はこう言ってますので……もしこれ以上続けるようなら警察を呼ぶ事になりますが良いですか?」  警察という言葉を聞いて怯んだのか、貴弘は体をビクッと震わせる。 「……わかりました。帰りますよ」  それから舌打ちをすると、駅に向かって歩き始めた。那津は海を見つめたまま、振り返ろうとはしなかった。
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