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* * * *  漁港内には関係者以外入ることは出来なかった。しかし港の前に大きな建物があり、その中にはたくさんの海産物の店舗が軒を連ねていた。  先ほどあがったばかりの魚介だけでなく、加工品の種類も豊富で、那津はついいろいろな物に手を出しては購入してしまう。  一人でお店を回りながら、ウキウキしている自分に気付く。ここに来たばかりの時はどん底だった。だけど海岸沿いのお店や、山の洋菓子店、そしてこの漁港、日を追うごとに楽しみが増えている気がする。  それもこれも、もしかしたら瀧本さんが話し相手になってくれたからかもしれない。一人だったらまだ海を眺めながら凹んでいたはず……。それに今朝だって、もし瀧本さんが来てくれなかったらどうなっていたんだろう……。思い出すだけでゾッとする。  良いように言い包められて、貴弘と一緒に自宅に帰ったのだろうか。そしてまた彼との交際を続けた……? いや、きっとあの浮気相手に奪われてお終いだったに違いない。  その時、那津のスマホの着信音が鳴ったため、慌てて取り出し電話に出る。 「もしもし……」 『あっ、那津さん?』 「た、瀧本さん⁈ 何で私の番号……」 『あぁ、俺の番号を入力した時に、ついでに俺のスマホに着信入れちゃった』  呆れて言葉を失った。だけど明るく楽しそうな彼の声を聞けて喜んでいる自分もいるから驚く。 「あなた何を勝手に……」 『まぁそれは置いておいてさ、今ホテル? 迎えに行こうと思ったんだけど』 「……実は部屋にいるのも飽きちゃったから、いま漁港に観光に来てる」 『漁港? 了解。じゃあ今からそっちに向かうから待ってて』 「うん、わかった」  電話を切った那津は、自分と周吾のまるで恋人同士のような会話を思い出して恥ずかしくなった。貴弘のことは言わなかったけどいいよね?  今朝のことがあったせいか、急に瀧本さんとの距離感が近くなった気がする。彼の場合、最初からフランクだったけどね……。
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