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* * * *  夜の海岸は、昼とは違った静寂に包まれていた。暗がりに輝く水面が、空と海の境目を知らせていた。  周吾は那津の手を取り、彼女の歩幅に合わせて歩いていく。前もこうだったな……そう思うと、変わらない彼の優しさが嬉しくなる。 「周吾くんはずっとここに住んでるの?」  体を重ねたことが理由ではないけれど、那津の中で彼のことをもっと知りたいという想いが芽生えてきていた。 「ずっとではないかな。小学生の時に引っ越してきたから。でも今ではここが俺の故郷になってる」 「そうなんだ……じゃあ昨日の方も?」 「あいつとはずっと一緒。まぁ他にもいるけど、ここを離れた友達もたくさんいるしね」  きっとその中には彼の元カノのことも入っているのだろう。聞いてみたいけど、知りたくないような複雑な気持ちだった。 「絢斗から元カノの話を聞いたんだよね。本当に余計なことを言うんだからな」  まるで那津の心を読んだかのような言葉だったので、驚いて周吾の顔を見つめる。 「……付き合って長かったの?」 「高二から三年間。最後の一年は電話だけでほとんど会ってなかったし、付き合ってたって言っていいのかわからないけど」 「……悲しかった?」 「浮気現場を目撃した時? そうだね……ショックだったよ。人の気持ちってこんな簡単に変わるんだって思った」  淡々と話す彼からは、もうそれが過去のことであるのが伝わってくる。 「でも本当はちょっと予感してた。電話がそっけなかったり、休みにも帰ってこなかったり。だからあの日は確認をしに行ったんだ。何もなければ安心して帰れるしね」 「……その気持ち、ちょっとわかるかも……」 「うん……。彼女の部屋の前で待ち伏せしてたらさ、男と一緒に帰って来たんだ。あーやっぱりそうだったんだーと思ったら、彼女から『別れたい』って言われてお終い」 「……辛かったね」  那津が言うと、周吾は立ち止まって微笑んだ。 「それは那津さんもでしょ。俺よりエグい現場に遭遇してるし。それにずっと仕事に打ち込んできたおかげで、こんな素敵な出会いも出来た」  周吾にキスをされ、那津はそっと目を閉じる。 「じゃあ部屋に戻る?」 「……戻るだけ?」 「さぁ……それは戻ってからのお楽しみ」  その言葉に胸が高鳴り、体の奥が疼いた。
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