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6
周吾と別れた後、那津はホテルに向かった。周吾に言われたように貴弘がいないかを確認しながらロビーに入るが、彼の姿はなかった。
きっと有休を一日だけとっていたのだろう。那津はほっと胸を撫で下ろすと、エレベーターに乗る。
部屋に戻ってベッドに寝転ぶと、ふと昨日のことを思い出す。
あんなに熱い夜って初めてかも……。求められる喜びを思い出した。
体がだるくて重くてちょっと痛い。でもすごく気持ちが良くて満たされてる。思い出すだけで頬が熱くなって、体が疼いてしまう。
それからポケットに手を突っ込み、周吾にもらった鍵を取り出して眺めた。
『那津さんさえ良かったらさ、ホテルじゃなくて俺の部屋に来ない? 那津さんがここにいられるのはあと少しだし、せっかくなら時間を無駄にしないでもっと一緒にいたい』
一週間だけの恋人……なのかな。それともこれ以降も続く?
那津は起き上がると、決して多くはない荷物をまとめ始める。それからチェックアウトをするため部屋を出た。
深く考えるのはやめよう。今は先のことは気にしない。残り僅かな周吾くんとの時間を楽しく過ごせればそれでいいや。
もしこれで終わりだとしても、彼と過ごした時間はきっといつまでも心に残るはずだから。
* * * *
周吾にもらった鍵を使って部屋に入る。今朝二人で出たのに、もう既に初めて入るかのような緊張感を覚えていた。
ベッドの脇にカバンを置くと、時間も忘れて抱き合ったベッドに倒れ込む。ほんのり香る周吾の匂いが、昨夜の記憶を鮮明に蘇らせていく。
あんなに鍛えた体を見るのは初めてだった。ましてやあの逞しい体に抱かれたなんて……。
それから那津はふふっと笑う。彼の体を抱きしめたかったけど、腕が回らなくてつい笑ってしまった。
辛いことがあったばかりなのに、そんなことをすっかり忘れてしまうくらい、あの時の私の意識は飛んでしまっていた。というか周吾くん、体力ありすぎよね……そう考えるだけで、ほんのりと幸福感に包まれる。
その時だった。スマホにメッセージが届いた音がして、那津は体をビクッと震わせる。
何故だろう……わからないけど嫌な予感がする。
カバンからスマホを取り出し、画面を見た那津は驚きのあまり目を見開いた。わなわなと体が怒りに震える。
そこに映し出されていたのは、貴弘が浮気をした女の名前だったのだ。
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