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「貴弘のことって……一体何を謝るって言うんですか? 佐藤さん」
那津が言うと、佐藤は意地悪そうな笑みを浮かべた。
「何って……彼が私に告白してくれたんです。彼女とは別れたから付き合おうって。こんな結果になっちゃってごめんなさい」
「お生憎様。別れを切り出したのは私の方ですから」
「でも……愛していたんでしょう? 苦渋の決断ですよねぇ」
「……どういうこと?」
まるで私が苦しみに耐えきれずに別れを切り出すのを知っていたかのような言葉。
すると彼女はニヤリと笑った。
「私ね、あの日にあなたからメッセージが届いていることに気付いていたんです。でも彼に気付かせないようにスマホを隠しちゃった。あなたに私と彼の関係が早くバレて欲しかったから」
那津は背筋が凍るのを感じた。
「やっぱり今までの匂わせって……わざとなの?」
「あぁ、SNSの写真ですよね? もちろんじゃないですか。それに……うふふ、気付いてました? わざと彼のシャンプーを使ったり、彼のスーツに私の香水を付けたこと」
「あなた……私に何か恨みでもあるの?」
その言葉に佐藤の顔色が変わった。
「……じゃなきゃやりませんよ、こんなこと。職場では同じ仕事をしているから比べられるし、あなたの方が同僚ウケもいい。貴弘さんだって……あなたと付き合う前に告白したけど断られたのよ。好きな人がいるからって。だから悔しかった……あんたなんていなくなればいいと思ったわ」
「貴弘に私が浮気しているって嘘をついたのも、それが理由?」
「そうよ。あんたが男と飲みに行ってる、他の男とも連絡を取り合ってる、でも貴弘さんとは会う時間を作ろうとしていない」
「だってそれは仕事で……」
「そう、仕事。でも事実だからこそ勘違いもしやすいの。何故なら二人はすれ違い始めていたし、私が近くにいたんだもの。感情を操作するなんて簡単だった。どう? 大事なものを奪われる感覚は」
「私は何も奪ってないじゃない。あなたが勝手にそう勘違いしただけでしょ! ただの逆恨みじゃない」
反論した那津に対し、佐藤は怒りを露わにする。
「うるさい! だから何⁈ 今日はあんたの不幸のどん底に落ちた顔を拝みに来たのよ。本当にお気の毒様。あぁそういえばあんた、証拠があるとか貴弘さんに言って脅したんでしょ? 何も知りませんみたいな顔してよくやるわよね。しかも外から部屋の中の音声が録れるとでも思ってるわけ? どんだけおめでたいの? 馬鹿みたい」
「それはどうかな」
突然の声にハッとして振り返ると、そこには息を切らして肩を大きく揺らす周吾が立っていた。
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