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目を覚ました時に一番最初に目に飛び込んできたのは、心配そうな顔をした周吾だった。
「周吾くん……」
「大丈夫? 那津さん、意識失っちゃって病院に運ばれたんだ。検査の結果も異常はないから、目が覚めたら帰っていいらしいよ」
周吾は安心したように表情を緩ませると、那津の髪を撫でていく。
「一応言っておくと、二人のやり取りを動画で撮っていた人がいて、佐藤さんは警察から事情を聞かれてる。彼女がどうなるかはわからないけど、誰がどう見たって犯罪だよ」
「うん……」
「でも……那津さんが無事で良かった……」
「うん、ありがとう……」
その時、ドアから中を覗く男性の姿が那津の視界に入る。
「おっ、目が覚めたんだ」
「殿山さん」
すると殿山は嬉しそうに那津が寝ているベッドに近寄ってきた。
「どうも〜。周吾の大先輩の殿山で〜す! 体調はどうですか?」
「あっ、はい、大丈夫そうです」
「ちなみに那津さんが着てた服が濡れちゃったから、殿山さんの奥さんが貸してくれたんだ」
「そうなんですか⁈ すみません、ありがとうございます!」
「いえいえ〜。あっ、周吾も今日は帰っていいぞ」
「えっ、いいんですか? やった」
那津が起き上がろうとするのを、周吾が背中に手を回して支える。それを見ていた殿山が、鼻を押さえながら壁に向かって倒れ込んだ。
「周吾くん、恋の炎は消防士でも鎮火不可ですよ」
「うるさいから出てってください」
楽しそうに部屋を出た殿山が完全にいなくなったのを確認し、周吾は那津の方に向き直る。
「じゃあホテルまで送るよ」
「あっ……ち、違うの……。実はもうチェックアウトして……荷物は周吾くんの部屋にある……」
「……それ本当?」
顔を真っ赤にしている周吾の胸に、那津も恥ずかしそうに顔を埋めた。
「本当。だから……周吾くんの部屋に一緒に帰っていい?」
「もちろん」
周吾の腕に抱きしめられ、那津はこの上ない安心感と幸福感を感じていた。
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